ガンの再発や転移で死の告知を受けた場合でも、一時的に「小康を得る期間」があります。
やがて状態が悪化するのですが、医師はその前にできれば「家に帰って家族といっしょに過ごさせてあげたい」と考えています。また入院している病人自身が「家に帰りたい」とか「だめなら家で死を迎えたい」といった気持ちを示し、退院したいと医師にうったえる場合もあります。
しかし、こうした医師の考えを、病人や家族が理解できない場合があります。病院でこれまで治療をつづけてきて、特に病状が好転していないのに、退院するようにいわれれば、とまどいや不安を感じたりすることがあります。こうして退院をためらっているうちに、退院の時機を失うという場合は少なくありません。
退院した後、家族は精神面・看護面でさまざまな問題に直面するかもしれません。ときには病人の痛みがひどくなったり、食物が食べられなくなったりして、家族だけではどうしたらよいのかわからなくなることもあります。
このような場合に備え、どのような事態が発生することがあるかをあらかじめ知り、それに対して具体策をたてておくことが必要です。
残された人生を、病院での医療にわずらわされることなく、自宅で比較的自由な生活を送ることが退院の目的です。
痛みのために薬を続けなければならない場合もあります。また、食欲が低下して体力がなくなり、歩く力がなくなった場合に、退院させたのがまちがいだったと悩んだり、「病気なのに退院させた」と親戚の人に非難されてもいけません。そこであらかじめ退院の意味を話し合い、最後まで協力しあえるようにしておくことが大切です。
退院により、家族は病人の世話で忙しくなります。また体力が低下して人手を要するようになった場合、家族の負担はより大きくなってきます。そのため、家事をはじめ生活上の事柄に対して、家族全員の協力態勢が必要となってきます。
一人だけに負担が集中しますと看病疲れから倒れてしまうこともありますので、役割を分担しあって病人を支えるようにしたいものです。
退院してからも病状が進行していくと、病人は自分の病名や病状に疑いをもち、家族に問いただすということも起こってきます。そんなとき、病名を突然聞かれると、適切な対応ができにくいものです。したがって、病人から質問される場合を考えて、真実を告げるかどうか、家族としての方針を確かめあっておく必要があります。
退院して、やがていろいろな症状が出はじめるようになります。これはあらかじめ予測できたことなのですが、現実になってみると、その対応にあわてる場合も少なくありません。
このような事態を避けるために、最後まで在宅療養をつづけるか、時期を見て再入院して病院で最後を迎えるのか、事前に家族の間で決めておくことが望ましいでしょう。