母のお棺と並んで眠る

[千葉県 男性 会社員 56歳]

イラスト  今夜が最後だ、母の傍で寝てやろう。
 そうきめて、私は立ち上がった。お棺の横に並んで寝るのも、いいではないか、と思った。本堂の隣の居間に布団が置かれている。私はそれを本堂に運んだ。母の通夜である。
 通夜のセレモニーの総てが終り、最後まで本堂に残った兄夫婦と子供達も居間に移った。私一人が本堂に残っていた。
 母のお棺は祭壇の裏にある。ほの暗い。祭壇の表側は、白い布の上に仏具が並び、その間に供物が賑やかに置かれ、燈明で明るい。表側は生の世界である。死んだ母と一緒に寝る為には、裏側の死の世界に私も入らなければならない。本堂の床は板だ。その上に布団を敷いた。お棺と平行に。
 お棺の顔だけの見える開きをあけると、母が笑っている。何度見ても、どの角度から見ても、母は笑っている。何故か安心した。
 子供の頃は、毎晩母と並んで眠った。最後に母と並んで寝たのは、いつになるのだろうか、もうそれは思い出せない。
 夜が明けて、葬儀が終れば、母はお骨にかわってしまう。母の横で、並んで眠ることのできるのは今夜だけだ。
 静かな夜だ。
 母は眠り続けている。黙って。
 ワイシャツ姿のまま、私は、布団に入った。悲しみというよりも、安堵めいた気持というか、母に甘えたような感情になって、いつの間にか、私は眠りに落ちこんでいた。


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