2000.03
お別れ会を考える

希望される簡素な葬儀

  東京都が平成8年に行った「葬儀の規模に関する調査」によると、半数近くの人が「こじんまり」した葬儀を希望している。そうした意識を反映してか、特定の宗教宗派によらない「お別れ会」や「しのぶ会」も珍しいことではなくなってきている。そのなかでも特に社葬が、「お別れ会」という形で行われることが目立つようになった。会社をアピールする社葬という機会には、儀式よりも接客を重視する体制が要求されるからであり、それには「お別れ会」がふさわしいのだろう。そして、ホテルという接客機能を中心に作られた施設でおこなわれるというところに、特色が示されている。

 

ホテルで「お別れ会」の意味

  ホテルでの「お別れ会」は、ホテル側が線香や喪服着用を好ましく思わないために、宗教色のない形式をとることが多い。「お別れ会」では故人の冥福を祈る場であるとともに、親交のあった方々の集いの場を提供する。ただしホテルで式を行う場合には、条件がもうけられている。
(1)館内での表示は「偲ぶ会」「お別れ会」等と表現し、「葬儀」の名称を避ける。
(2)祭壇は花祭壇などにして白木を用いない。
(3)遺体の安置はしない。
(4)読経、焼香でなく、献花とする。
(5)参列者・主催者ともに喪服を避け、平服を勧めている。
などがホテルでの「お別れ会」を行う場合の共通の条件といえる。

 

社葬の新しいかたち

  ホテルオークラは以前、企業の総務担当者を対象にした、新しい社葬のかたちを考えるセミナー「ホテルにおけるお別れの会」を開催した。このときホテル側がした提案には、社葬の1切をホテル側で対応し、遺族から弔問客まで、すべての人に対してホスピタリティーを重視し、式典は故人にふさわしいお別れをプロデュースするというものであった。
  ホテルには遺体は持ち込めないため、祭壇にあたる台の遺影写真に献花をする形式となる。料金見積りも理解しやすい。
  プリンスホテルでも、「感謝の宴」という商品名で、お別れの会・社葬・偲ぶ会を実施している。ホテルでは、祭壇設営から献花、引き物、遺影、案内状の手配まで行い、セールポイントには、次のものがある。

1. 季節、天候にかかわらず行える。
2. 自信のある料理で、集いの時を引き立てる。
3. 駐車場があり、車でも安心して来館できる。
4. 車の誘導・呼び出しも行う。
5. 出席の方々、各界のVIPの方々の案内も、到着からお帰りまで行う。
6. 来客・遺族の方の宿泊、美容・着付も引き受ける。

 

ホテルばかりではない「お別れ会」

  もちろん「お別れ会」を実施する場所はホテルだけではない。映画監督の黒澤明氏が死去したとき、通夜・密葬は自宅で、葬儀は「お別れ会」として横浜市緑区の黒澤フィルムスタジオで行われた。
  映画「男はつらいよ」シリーズの「フーテンの寅さん」役で有名な渥美清さんの場合、妻子のみによる密葬が行われ、「お別れの会」は、神奈川県鎌倉市の松竹大船撮影所で行われた。
  会場の入り口には、だんご店「くるまや」の軒先を再現。祭壇は、江戸川の土手をイメージして作られた。撮影所であるから、セットづくりはお手のものである。会場には全国各地のファンが次々と訪れ、松竹では150人の社員を動員し、ガードマンや大船署員と共に案内や列の整理にあたった。以上は撮影所を式場として利用した例である。

 

芸能人の「お別れ会」

  大衆に親しまれた芸能人の場合、宗教葬儀よりも「お別れ会」の方がふさわしいといえる。テレビ司会者として活躍した土居まさるさんの場合は、「お別れ会」を東京新宿区の千日谷会堂で営み、約1,400人が参列した。1,000人以上の参列者が予想される場合では、ホテルでの「お別れ会」は不可能であろう。祭壇には遺影が飾られ、生前愛したカントリー&ウエスタンが流された。会場には故人のお気に入りの20点の写真も飾られた。
  ジャズ評論家のいソノてルヲ氏のお別れ会は、東京都港区虎ノ門・ホテルオークラ別館曙の間で行われた。お別れの会では約800人が用意された酒と食事を楽しみ、ステージではジャズが演奏された。この場合には、コンベンションなどに利用される大型の施設であるため、800人の参加者でも可能であった。
  シャンソン歌手、中原美沙緒さんを追悼する「中原美沙緒を送る会」は、都内のホテルで開かれた。隣の部屋には参列者が談笑できるスペースが用意された。中原さんの歌声がテープで流れ、スライドでステージの模様が紹介された。

 

事前にすませる密葬

  「お別れ会」を行う前に、親族では密葬を行っている場合が多い。「お別れ会」をしない場合でも、都会では密葬を行う流れがある。密葬が広がるきっかけになったのは、1992年5月に死去した漫画家長谷川町子さんの場合が先べんをつけた。その後、俳優の渥美清さん、女優の沢村貞子さんらはいずれも死を公表せず、代わりに「偲ぶ会」「お別れ会」などの形を取った。
  これらがこれまでの葬儀に物足りなさを感じていた人たちに影響を与えた。「密葬」は社葬を行う前に身内だけで行う葬儀を指すこともあり、暗いイメージもあるので、家族葬、プライベート葬とも呼ばれる。

 

「自分葬」の模擬披露

  自由な葬送を考える静岡市の市民グループ「21世紀の葬送を考える会」は、96年3月に、静岡労政会館で「模擬自分葬」を披露した。そこでは、同会事務局員を故人に模して「お別れ会」が行われた。このように、今後の葬儀をテーマにする場合には、「お別れ会」を欠くことはできないだろう。

 

「お別れ会」の演出

宗教祭壇からシンプル祭壇へ

  「お別れ会」などの無宗教の葬儀では、いろいろな祭壇を使用することが考えられる。アメリカ映画によく見られる霊園での葬儀(埋葬式)には祭壇は見られない。棺が祭壇といえなくもない。葬儀用の祭壇でも、最近は新しいデザインのものも作られ、個性的な演出が可能となっている。
  故人とのお別れであるため、遺影写真は重要である。写真は正面を向いたものだけではない。笑顔のものが人気がある。
  式場をセッティングするには、やはり遺影とそれをひきたてる回りの飾りつけが必要である。全体がみすぼらしい感じにしないために、さまざまな工夫が必要となる。故人の好きな花を祭壇の周囲にあしらったり、故人の趣味の作品を祭壇の近くに飾りつたりして、故人を知らなかった会葬者に、その人柄や生き方を伝えることができる。しかしごちゃごちゃした印象になることは避けたい。
  故人の人生を特徴づけるためには、故人が携わった仕事や趣味を彷佛とさせる展示がふさわしい。しかしゴルフ好きの人では、ゴルフクラブを置くというのはありふれていて感動がない。

 

人気を集める花祭壇

  最近葬儀で目立ってきているのが、生花を飾った祭壇である。一般に祭壇装花、遺影を生花で縁取ったフレームデコレーション、献花台から構成されている。生花はどんな花でも使用可能である。ある作家の場合には菜の花を用いた。故人の故郷をあらわす花も印象深い。
  花祭壇は、普通の白木祭壇より費用がかかる場合がある。お別れ会までの日数にもよるが、生花を専門にアレンジする技術が必要となる。

 

一人一人の献花

  「お別れ会」では、焼香のかわりに花を棒げる献花はよく行われる。これは、キリスト教式のほか、無宗教式でも行う形式である。献花に使う花は白菊、白のカーネーションが多い。故人の好きな花を使うこともある。ただし参列者の数より多少余分に用意しておく。
  最近では線香の他、さまざまな香料が輸入されている。そこで焼香も、仏式で用いる線香以外の香料を使うことも考えられる。「お別れ会」の場合でも抹香の匂いのしない焼香であれば、宗教を連想させない。
  焼香にかわる方法に献灯がある。これは会葬者が順に、祭壇に並んだローソクに火を灯していくもので、幻想的な雰囲気がかもし出される。献灯の際には、場内の照明を暗くしておくと効果が出る。献燈の順序は参列者のあとに施主が行うケースがある。

 

「お別れ会」の音楽

  「お別れ会」には、式典だけでなく、その前後にも音楽がかかせない。出棺の際に、故人の好きな曲が流されることも多い。また小川のせせらぎなどの環境音楽も使いやすい。
  「お別れ会」の雰囲気にふさわしいものとして、テンポのゆっくりしたクラシック、童謡や日本の名曲も、ゆっくりとした演奏で録音したものであれば使用可能である。また、故人の愛唱した演歌もある。
  曲のいわれを事前に説明すると、会葬者にも納得される。事前に歌詞カードを配り、皆に歌ってもらうのも、参列者の参加意識を高めるのでよい方法である。
  式で生演奏をするのも雰囲気がある。実際に孫にピアノ演奏をしてもらう方法もある。プロの演奏家に依頼する場合には、選曲と技術力にもよるが、テープで流すよりもその場の雰囲気を作りやすい。

 

清め会場

  ホテルなどでの会食の場合、立食式の場合が多い。この場合、席順も考えなくてもよいため主催者としては気を使うことが少ない。

 

「お別れ会」 式次第の例

  お別れ会をするには、前もって準備してあれば問題がないが、その意向はあっても具体的にはどうしてやったらいいか分らないものである。そこで大事な部分は葬儀社に頼ることになる。実際に遺族としては、次のような作業を行うことになる。


死亡通知

  死亡通知は葬儀の案内を兼ねることが多い。「お別れ会」の場合には、どんな会であるか心配する人が多いので、分りやすく説明する必要がある。
  「父○○○○が5月5日午後死去いたしました。故人の希望により、通夜・葬儀は家族だけでの密葬とさせていただきます。お別れ会は、5月10日午後1時より大岩会館にて営みます。」などの情報を、電話やファックスで知らせる。また自宅の玄関にも、お別れ会案内の紙を貼る。
  ただし密葬といっても、親戚はもちろん、近所の人がお悔やみにやってくることが考えられる。その場合には、お悔やみ客に対して、礼を尽くさなければならない。


演出

  式場にスクリーンを設置し、故人をスライドやビデオで紹介することも行われている。故人を、青年時代、社会人時代、引退後などを年代別に並べて紹介する。写真には、それを解説したナレーションが必要である。ビデオでも、大きく投影することは可能である。この場合にも音楽やナレーションが欠かせない。


展示コーナー

  その人の人生を示す演出に、思い出コーナーの設営がある。式場の待合室やロビーを利用して、故人の写真、賞状などを展示する。写真はパネルにして、簡単な解説をつける。
  飾るものは写真に限らず、趣味で作った絵画や写真、手芸品、俳句や短歌などの作品は、その人を物語る展示品となる。そのほか賞状や自費出版した本なども考えられる。


■お別れ会の進行

  会館でのお別れ会。受付では香典を受ける。(受けない場合は、それを明示する必要がある)
・来賓入場
・開式の言葉
  「ただいまより故○○○○を偲び、お別れの会を開会させていただきます」
・黙祷
  「故人の冥福を祈り、黙祷を棒げたいと存じます。皆様、ご起立願います」
・弔辞
・弔電紹介
・喪主、遺族、親族の献花
・会葬者献花
  献花終了後、清め会場へ案内する。
・親族代表謝辞
  「お別れ会」にしたいきさつと、葬儀を近親者ですませたことの報告をする。
・閉会の言葉
  「以上をもちまして、故○○○○とのお別れ会を閉会させていただきます」
会場の出口で、記念品と会葬礼状を渡す。(先に渡すこともある)


お別れ会のお知らせ(文例)

  故 ○○○○氏のお別れ会についてのお知らせ
  本年3月20日に逝去いたしました ○○製作所元社長の○○○○氏のお別れ会を下記のとおり執り行いますので、謹んでお知らせ申し上げます。

1. 日時 平成12年3月4日(水)午後   2時〜3時半
2. 場所 虹の谷会館(東京都港区3丁目)
3. 代表世話人 ○○製作所社長 □□□□
4. 喪主    ○○△△

  密葬の儀は過日近親者のみにて滞りなく相済ませました。供花、香典等の儀は固くご辞退申し上げます。当日は平服でご参加頂くようお願いいたします。

  【お問い合わせ先】○○製作所広報部   ××

 

お別れ会の意味

  これまでお別れの会は、増加していく前提で話を進めて来たが、この形式もマンネリ化し、それがまた喪家にこれまでの葬儀以上に負担をかけるということはないだろうか。
  葬儀は故人のものから、会葬者のためのものに変わっているが、その行き着いた先が「お別れ会」であるといえる。「お別れ会」は、個性的な人生を送った人にとっては、演出の方法や意味もあるが、大多数の名も無い庶民を対象として考えたときに、果たして個性的な演出ができるものであるだろうか。たとえばカラオケがうまかったとしても、それを読経の代りに式場で流しても、式典のもつメリハリが確保できるかが心配である。
  その点、これまでの仏式葬儀であれば、喪家側も葬儀社のいわれるままに従っていればよかった。それに対して「お別れ会」となると、故人の好きだった音楽の準備から、弔辞を依頼する人の選択まで、準備しなければならないのである。
  そういう事から考えると、仏式葬儀が「お別れ会」に取って替わるということはなさそうである。
  といっても安心は出来ない。それは、葬儀の選択肢そのものは着実に増えて来ており、「お別れ会」をしたい遺族もいるのである。

 

お別れ会の時代の仏式葬儀

  お別れ会が珍しくなくなった時代のなかで、これまでの仏式葬儀はどのように影響を受けるか。大多数の遺族は、故人との打ち合わせや依頼が無い限り、事前に葬儀の準備をするということは考えられない。これまでの仏式葬儀は形式的であるといわれるが、形式的だからこそ事前に準備しなくても出来るのである。しかし個性的な葬儀をしようと考えれば、ある程度の準備は欠かせない。よくある「お別れの会」というものは、まず身内だけで密葬を行い、そして1週間以上の準備を経てから行うことが多い。
  こうしたケースであれば、演出などに工夫をこらすことが可能である。しかし、葬儀の代りに「お別れ会」をする、つまり亡くなって2、3日後に「お別れ会」を行うことはむずかしいだろう。では死の2、3日後に「お別れ会」をする場合、どんな用意が必要かをリストアップしてみよう。

◎ 「お別れ会」をするために親族の了解を得ること。
◎ 「お別れ会」を実施するための主旨と、どのように行うかのプランニングがあること。
◎ 主旨と施行方針が決定したら、案内を作成して関係者に通知すること。
◎ 香典や喪服についての主催者側の立場を明らかにする。
◎ 式典で使用する音楽や祭壇のプランニングをする。
◎ 弔辞の依頼をする。
◎ 焼香方法を決定する。

  いずれにしても、主催者の明確な希望があり、それが会葬者に納得してもらえれば成功といえる。しかし失敗は許されないだけに、遺族は慎重にならざるをえないだろう。

 

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