1999.02
しきたり110番(1)

  長く続いてきたしきたりには、それなりに人間の知恵が秘められている。しかし時代とともに形骸化したり、簡素化されているしきたりも少なくない。また地域によって異なるものもある。こうしたしきたりは核家族化の進む現代では、それがきちんと伝えられるケースが少なくなっている。そこで今回は、インターネットでセキセーのホームページに寄せられたしきたりのQ&Aを2 回に分けて取り上げていく。


■寺院・旦那寺

Q:私の田舎にはお寺さんがあり、私の父親の葬儀もそこでお世話になりました。現在私は大阪に住んでおりますが、母親の具合が悪くなったので、こちらの病院のお世話になっております。母親にもしものことがあった場合、告別式等はこちらでしようと思っているのですが、我が家の宗派のお寺さんがどこにあるのかさえわからない状態です。近くのお寺はどうも宗派が違うようです。私のように、都会に働きに来ている人が多いと思いますが、どのようにすれば良いのでしょうか。

A:都会などに出て、旦那寺がふるさとにある場合、どうするかという問題です。問題を整理する必要があります。
  まずあなたの家が属している宗派で葬儀をするということは、その宗派にふさわしい戒名をいただくという意味があります。そこで例えば、葬儀をしてもらいたいが、属している宗派の寺院を知らない場合、葬儀を依頼する葬儀社に紹介してもらうという方法があります。次にその寺院との付き合い方をはっきりさせる必要があります。つまり、葬儀後の忌明け法要や年忌法要などもそのお寺に依頼するかどうかという問題です。もし、そのつもりでしたら、あまり遠くの寺院を紹介してもらっても困るでしょう。そこで整理してみましょう。寺院に依頼することとして
  1. 葬儀 2. 戒名 3. 初七日法要 4. 忌明け法要 5. 回忌法要など、どこまでお願いするかを決めておく必要があると思います。そして葬儀だけを依頼して、そのあとの法要はふるさとの寺院で行う場合には、俗名で葬儀をあげ、故郷の寺院で戒名を頂いて、その後の供養をお願いするということもあります。

 

■密葬

Q:主人の葬儀をするときには、できれば家族のみで静かに見送ってあげたいのです。このような場合はどうしたらよいのでしょうか?通夜のこと、葬儀のことを詳しく教えていただきたいので、よろしくお願いします。

A:最近では身内だけで葬儀をするという形が一部で出てきています。それは身内が会葬者の対応におわれ、心からのお別れができないということから、芸能人を中心に出てきました。これを密葬といいます。ただし密葬の注意点は、死亡連絡をいつするかということです。実際、身内だけで葬儀をしたあとに、死亡通知を親戚や友人にしたら、どうして葬儀に呼んでくれなかったといって叱られたり、また友人が死亡通知を聞いて、あとから個々に焼香に訪れ、その対応に追われるということにもなりかねません。そこで死亡通知の際に、ご主人の遺言で密葬をするということを同時に伝える必要があります。
  なお、詳しくはお近くの葬儀社さんにご相談下さい。

 

■妊婦の参列

Q:友人のお葬式に参列するとき、自分が妊娠している場合は、行かないほうがいいのですか?いってはいけないような理由などはありますか。

A:かつては、妊娠している方が葬儀に参列することを遠慮するという風習があったようです。その理由は、死者の霊が胎内に入ってくるかもしれないという危惧を抱いたからではないかと思われます。そこで、妊婦は参列する際には鏡を腰部に入れて、霊が入らないようにしました。しかしこれはあくまでも迷信のたぐいなので、現在ではそうした習慣の残っているところは少ないものと思います。

 

■葬式無用

Q:葬儀や通夜をいっさい行わない場合、火葬などは、どのようにすればいいのでしょうか?

A:火葬するために必要な条件として、
  1. 火葬許可証をもって火葬場に行きます。(役所に死亡届けをするといただけます)
  2. 遺体は2 4時間経過しないと火葬できません。
  3. 遺体を納める棺が必要です。
  4. 火葬場にはあらかじめ予約が必要です。ただし予約の方法は地域によっても異なります。また個人で受け付けてくれるかどうかわかりません。そのため、最寄りの火葬場に問い合わせて貰うことしかないと思います。
  5. 火葬場が休みだったり、込み合っていた場合、遺体保存の問題があります。

 

■焼香順位

Q:通夜・葬儀時の席順について教えてください。喪主についてもお願いいたします。

A:席順は焼香順位にしたがって決めます。喪主、焼香順位は家により、地域により異なります。また、誰が亡くなったかによっても異なります。そのため、ご質問の内容では状況が把握できません。
  以下に焼香順位の一例をご紹介します。
  1. 喪主
  2. 故人の配偶者
  3. 喪主の配偶者
  4. 姓の変わらない子ども
  5. 姓の変わった子ども
  6. 故人の父母
  7. 故人の配偶者の父母
  8. 故人の孫
  9. 故人の兄弟姉妹
  10. 故人の配偶者の兄弟姉妹
  11. 故人の伯父・伯母
  12. 故人の配偶者の伯父・伯母
  13. 故人の甥・姪
  14. 故人の配偶者の甥・姪
  15. 会社その他の関係者
  喪主は、普通は故人と最も近い血縁の人がなることが多いようです。また夫婦のいずれかが死亡した場合にはその配偶者、配偶者がすでに死亡している場合は長男、又は、二男の方が多いようです。

 

■法要の案内

Q:日の通知(ハガキ及び手紙)の例文がありましたら、教えて下さい。

A:次は法要のお知らせの文例です。
  「謹啓 ○○の季節となりましたが、皆様にはご清祥のこととおよろこび申し上げます。先般、父○○死去に際しましては、ご丁重なるご厚志をいただき、厚く御礼申しあげます。おかげさまで、なんとか気持ちを取り直し、亡き父の遺志に添うよう、家族一同力を合わせております。
  さて、来たる○月○日(日)午前○時より、自宅にて亡き父の七七日忌法要を営みたいと思います。つきましては、ご多用のところまことに恐縮ではございますが、ご参会のほどお願い申しあげます。
  まずは、ご案内ならびにお願いまで。」 
  (註)出欠を確認するために、返信はがきを同封する場合もあります。  

 

■法要に招く範囲

Q:私の息子は3歳のとき、病気で亡くなりました。来年三回忌の法要の予定です。忌明け、一周忌は大勢の親戚をよんで法要をしました。さて三回忌でも一般的には一周忌同様に出席してもらうのでしょうか?息子の法要なので、交流のあった人だけでやりたいのですが。

A:大変に今日的な質問だと思います。現在普通の法事もだんだん簡略化されていく傾向にありますが、特に幼いお子さんの場合には、気心の知れた人だけで行いたいというのが実感かと思われます。そこで三回忌ですが、おっしゃるとおり気心のあった方だけで行い、そして呼ばなかった親戚先には、「この度○○の三回忌を無事終了いたしました。」と報告されればよいのではないでしょうか。法事はあくまでも故人の追悼が目的ですので。

 

■法要の期限

Q:今秋、祖父が十三回忌で祖母が七回忌の法要を行う予定ですが、6月に父が亡くなりましたので、祖父母の法要はいずれ切り上げてはどうかと話し合っています。そこで教えていただきたいのですが、切り上げ法要は普通の法要とどのように違うのでしょうか。

A:質問の「切り上げ」というのは、年忌法要の弔いあげのことかと思いますが、普通、三十三回忌か遅くて五〇回忌で最後の法要とします。
  一方「繰り上げ」の法要は、同じ年に法事が重なった場合、早い命日の人に合わせて、併修することを指します。例えば、10月に祖父の十三回忌、11月に祖母の七回忌で、9月に父の百カ日法要をする場合に、9月の百か日法要をメインの法要として、祖父と祖母の法事を繰り上げて併修することがあります。なお詳しくは旦那寺にお尋ねください。

 

■法要の準備

Q:百か日の法要について、どこでどのようにすれば良いのでしょうか。菩提寺で行うものですか?それとも、宗派によって違うのでしょうか。

A:百カ日法要は忌明け法要や年忌法要と同じようにします。まず日程を決めてから招く人に早めに電話や葉書で案内をします。法要は、自宅や菩提寺で行ないます。いずれも、僧侶の読経のあと、会食をします。また同日に墓参りをすることがあります。
  (註)状況によっては、法要と会食を異なる場所で行うことがあります。

 

■献杯挨拶

Q:一周忌法要で献杯のときの挨拶はどの様にするのか教えてください。

A:宗派、地域によりいろいろですが、この献杯は法要で親族の代表者が、お斎(おとき)の時に挨拶する言葉と思われます。これは、故人を偲び、御冥福を祈る言葉を述べたあと、「献杯」といってから食べ始めます。

 

■お布施

Q:東京の寺院で父と母の二十七回忌を行いますが、お布施の相場はいかほどのものでしょうか。式は家族だけで執り行います。

A:法要には四十九日の法要のあと、一周忌、三回忌などの年忌法要があります。これに包む金額は、寺院とのこれまでのご関係、家の格式などによって異なります。寺院におたずねすれば提示してくれる場合と、お気持ちで結構ですといわれることがあります。目安としては「月まいり」のお布施が3,000円から5,000円であれば、法要はその10倍といわれています。これを参考にしてください。

 

■院号料

Q:(1)昨年、父の葬儀のとき、戒名に院号がついているとかで、供養料がとても高くなったため、母は「自分のときは院号など付けずに安くしてもらいなさい。」といっています。「遺書に院号はいらないと書いておく。」ともいっていますが、院号なしにできるのでしょうか。できたとしても、親族などから非難されないようにするには、どうしたらよいのでしょうか。

  (2)先日の新盆の供養料が高くておどろいております。子供の負担低減のためにも、自分の代になったら、できれば寺を変えたいと思っております。そういう場合どのようにしたらよいのでしょうか。また、仏事をやるお金がなかった場合、どうやって断ったり、減額したりすればいいのでしょうか。

A:まず1番目の問題ですが、戒名は個人の仏事に対する貢献度に対して与えられるものですから、お父さまが院号を頂いたからと言って、お母さまも院号を頂けるという筋のものではありません。しかしお寺さまの方で、つける可能性があるのでしたら、事前に「院号はいらない」と申し出ておく必要があります。
  親族の皆様に対しては、お母さまの健在のうちに、「本人の希望として院号はいらない」旨を、本人の署名のあるお手紙を出して、あらかじめ承諾を受けておくと、残された遺族に非難が向けられることはないと思います。
  次に寺院を変えたいという質問ですが、まず自分のお墓をその寺院が管理しているものであれば、変更することは大変です。なぜなら墓だけその寺院に管理してもらうことになるからです。あるいは墓ごと移転する手続きをしなければなりません。しかし墓がない場合には、同じ宗派の寺院を見つけるということになります。(宗派が異なると戒名の付け方やお経が変わります)
  またこれまでどうりのお布施の負担が大変であれば、そのあたりの事情をはっきり寺院に告げるほかありません。

 

■納骨式

Q:親しい友人が亡くなりました。 後日遺族の方に、「墓参りがしたいので、お墓の場所を教えて頂けないか」と申し上げた所、「納骨式があるから、よければその時に来て欲しい」と言われました。そこで、質問なのですが、友人という立場で納骨式に参加してもよいのでしょうか?また参加する場合の服装や、用意するものはあるのでしょうか?(お金を包んだりするのか?)


A:現在まだ納骨がすんでいないようですので、納骨式に一緒してと誘われたものと思います。故人以外にご存じの方がいれば出席しやすいことと思います。参加される場合には、出来るだけ地味な服装にします。表書きは「御仏前」とします。包む額は、食事の用意があるかどうかによって違うと思いますので、その辺を確認されたらどうでしょうか。

 

■分骨

Q:分骨についておたずねします。分骨し他に安置する場合、許可証が必要でしょうか?

A:分骨する場合には2つの方法があります。一つは、骨あげした時点で、お骨を分骨用に取ってある場合です。その場合、納骨先の納骨依頼書に記入します。その際には、納骨許可証(これは火葬場で火葬したときに発行されます)を提出します。
  二つ目は、お骨がすでに墓のなかに入っている場合です。その場合は、改葬届けが必要となります。現在お骨のある墓地、納骨堂のある役所に行き、「埋葬証明書(これは現在お骨がある寺院などでつくってもらう)」と「受け入れ証明書(これは新しく入る寺院などから発行してもらう)」を提出して、改葬許可書証を発行してもらいます。そのあと、寺院から遺骨を引き取り、新しく入る墓地に行って手続きをします。

 

■歯骨の納骨

Q:歯骨についてお尋ねします。仏壇の中に私の息子の歯骨が保管されたままになっています。まわりの人に聞くと、京都の西本願寺に納めたほうがいいといいます。どうしたらよいのでしょうか。また費用や時間などわかれば教えて頂きたいのですが。

A:西本願寺の信者さんは、別院ならびに本山に納骨される習慣があります。ただし納骨は特に歯に限らないようです。本山納骨の場合ですと、大谷本廟(京都市東山区五条坂)です。年中無休で九時から5時まで受け付けています。受付で納骨申込書に所定の項目(戒名・死亡年月日)などを記入して申し込みます。費用は最低20,000円からです。(なお納骨許可証が必要の場合があります。)

 

■仏壇のお供え

Q:来月に父親の百ケ日法要があるのですが、仏壇のお供えなどよく分かりません。どの程度のお供えをすればよいのでしょうか。

A:御仏壇のお供えは、地域や宗派によって飾るものが多少違います。百ケ日や年忌法要などの重要な法要は同じ様なお供えをすると考えられます。
  まず線香、ローソク、生花の三具足を用意します。三具足は左から花立て、香炉、燭台ですが、五具足の場合には外側より花立て、燭台がそれぞれ一対で、中央が香炉になります。これが基本で、その他供物をお供えします。禅宗の場合には、霊供膳をお供えします。霊供膳は手前から箸、ご飯、汁、香のもの、煮物などの平皿、なまものなどの御壷をおき、仏壇の方に向けて供えます。そして茶湯器を供えます。

 

■享年

Q:当方は来年に父の七回忌の法要にあわせ、墓石を購入する予定です。先日、法名塔に彫り込む文字のことで、調べていたところ、亡くなった者の年齢についてわからないことが生じましたので、お尋ねする次第です。享年と行年は同じ意味でしょうか。その場合、実際の歳(満年齢)に1を加えた数を位牌等に記入するのでしょうか。

A:享年と行年は同じ意味で、亡くなった時の数え年で表してきました。年齢の数え方は、明治までは満ではなく数えで記しました。たとえば平成2 年3月4日に生まれ、平成5年2月3日で亡くなったとしますと、この人は満で数えると満で2 歳11カ月ですが、数えでの享年は4歳となります。また数えから滿に直すには1をプラスするとは限りません。生まれた日に1歳、新年を迎えるたびに一歳を加えますただし現在では、享年を満年齢で記すことも多くなっています。

 

■俗名の位牌

Q:最近、母が死去し、間もなく七七日忌法要があります。菩提寺も仏壇も無いという状態での死去でしたので、まだ戒名をつけていただいておりません。
  本位牌には、俗名で彫っていただく予定ですが、「○○○○之霊位」でよろしいのでしょうか。

A:普通、本位牌に戒名を書く場合には、日蓮宗の場合、表に「妙法○○院○○信士位」などとし、両側に小さい字で死亡年と月日を印し、裏面には俗名と行年(死亡したときの年齢)を書きます。表面に俗名だけを書く場合には、「○○○○之霊位」とし、左右に死亡年と月日を印すことになるのでしょうか。いずれにしましても菩提寺にあたるご住職に、ご相談されることをおすすめします。

 

  今回は法要、納骨、布施、焼香順位など葬儀・法要における人間関係や、寺院との関係についての質問を取り上げた。
  法要では親戚や会葬者をどこまで呼んだらよいかという疑問となり、たくさん呼ぶのは大変だが、呼ばないと義理が果たせないので、ちょうどいい点が知りたいのだろう。また寺院との関係もそうである。お布施の額はいくらであるのか、院号は本当に必要なのか?これらはすべて寺院との関係をどの程度にしたらよいかということである。
  こうして考えると、共同体のなかでお互いに助け合うという形が通用しなくなり、家庭単位で、「親戚や世間に束縛されない生き方をしていきたい。ただし摩擦が起きない程度にそれを行っていきたい」という考えが前提になっている。答える側としては、しきたりを守る側の立場も尊重する必要はあるが、時代が何を求めているか読み取る必要はあるだろう。

 

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