1999.01
アメリカの霊園とデスケア産業

霊園の種類

  日本の霊園の種類を大きく分けると、公営墓地、寺院墓地、そして民間霊園があるが、アメリカでもだいたい同じである。アメリカの霊園は、教会墓地、個人墓地、民間霊園、軍人霊園、メモリアルパークなどが代表的なものである。アメリカでは管理の行き届いている霊園が10,000カ所と、手入れもされずほとんど見捨てられている霊園が15,000カ所あるという。こうした状況になったのは、都市に人が移り住んだとき、墓はそのまま放置されたことがあげられる。
  霊園を作るには、墓の管理の永続性と公共性が要求されるため、教会や非営利団体、自治体が運営するケースが多い。そうした意味では変化の乏しい世界であったが、近年大きな変化を迎えている。それは大型葬儀社が霊園を営業戦略に取り込んできているからである。


教会墓地

  日本の寺院墓地にあたる。教区民のための墓地で、教会に隣接していることが多い。しかし今日では、霊園の維持管理費用が不足しているため教会墓地は荒廃している。寺院墓地は免税だが、州の法律では管理規制が厳しくない。最近では、こうした宗教に守られた霊園に民間企業の介入が及んでいる。

個人墓地

  自分の敷地内にある墓で、20世紀に入るまでは地方によくみられた。しかし家族の生家を離れるにしたがい、そうした墓は見捨てられる形となっている。私有墓地はいまのところ許可されているが、今後奨励されることはない。

メモリアルパーク

  メモリアルパークは広い敷地をもつ公園墓地で、美観のために墓碑の大きさや形が統一されている場合が多い。墓碑は芝生の植えられている敷地に平面に置かれている。墓碑が平面に置かれている理由は、芝生の手入れが機械で出来、管理費が安いということがあげられる。公園というだけあって、樹木の配置や芝生の手入れが行き届いている。

米国で1,000柱収容の教会葬儀会館

  カルフォルニアにあるアメリカ最大のローズヒルメモリアル公園(2,500エーカー)に、94年、3階建の教会葬儀会館が建造された。そこでは教会での葬儀だけでなく、様々なイベントにも使用出来るという。会館には1,000の納骨スペースが設けられ、葬儀施行はローズヒル葬儀社。このように霊園のなかに葬儀会館を設置するのが最近の傾向となっている。

国立霊園

  国立霊園組織が管理する霊園はアメリカ国内に114あり、運営費は年間7600万ドル(97年)である。また陸軍が管理しているアーリントン墓地と海外軍人墓地が24カ所ある。国立霊園はリンカーン大統領が南北戦争で戦死した兵隊を埋葬するために始めたもの。この20年間で国立霊園に埋葬される人の数は2倍となり、年間約7万体という。こうした埋葬とそれに関連する費用は7,300万ドルという。埋葬スペースは2020年まで大丈夫という。埋葬出来るのは、退役軍人とその家族で、埋葬にあたっていくつかの特典がある。墓碑の形は統一されているので、遠くから見ると美しいが、目的とする墓を探すのに手間取りそうである。

 

霊園内の施設

 霊園の施設として、管理事務所、土葬スペースの他、最近では埋葬場所の確保から立体的なモーソリウム、火葬のともなって生まれたコロンバリウム、散骨庭園が備わっている。


◎モーソリウム(霊廟)

  霊廟とは有名人や裕福な故人を記念するために設けられた建物で、インドのタージマハールのようなものである。これはクリプトとも呼ばれる。外観は四角い大理石のビルのようであるが、中に入ると壁面には教会のようにステンドグラスがあったり、ローソクや花をささげる設備がある。遺体の入った柩は何層もあるスペースに納めるため、遺体はエンバーミングされ、柩は完全に密閉されていることが普通である。家族の霊廟や個人の霊廟も費用次第では作ることが可能である。

◎コロンバリウム(納骨堂)

  火葬した遺灰を入れた骨壷を安置しておく納骨堂。アメリカでは火葬の普及にともなって、新しく作られる霊園には、骨壷を安置するコロンバリウムが一般的に見られるようになった。外装は威厳を保つために凝った作りが多い。希望者は飾りガラスの棚に骨壷を納め、淡い光と静かな音楽が流れる室内で対面するのである。

◎散骨庭園

  霊園のなかに、故人の遺灰を撒くための場所。撒く区画は、バラ園になっていたりしている。その一角には遺灰が撒かれた人の名前を刻むプレートが掲示されている。散骨の費用は霊園費用のなかでもっとも安い。

 

墓地の使用料金

  墓地の使用料は、霊園や霊園内の場所によっても異なるが、埋葬の区画はおよそ500ドル(約60,000円)。高いものは5,000ドルから、安いところで100ドルとさまざま。平均600ドル(約72,000円)である。埋葬するに当たり、棺を土から守る覆(ボールト)が必要で、これが600ドルする。霊廟や共同霊廟の場合、1,500から3,000ドルであるが、これは霊園によって異なる。共同霊廟は、棺の立体駐車場のようなものをイメージすればいいが、目の高さの位置にあるスペースが一番料金が高い。その他、墓地や霊廟に棺を納める埋葬作業に500ドルくらいかかる。
  墓碑の費用は、単純な地面の上に平面に置く墓碑は500ドル、それにネームの刻印が1字につき幾らかかるというのも日本と同じである。永代使用料もかかることはいうまでもない。これだけでざっと合計2,200ドル(約264,000円)。これに別途葬儀費用が必要である。

 

霊園費用

  アラバマにあるパインレスト・メモリアルパークの例
  敷地1区画      495ドル
  青銅の墓碑(単独)  650ドル
  基部         185ドル
  添えつけ       176ドル
  合計      1,506ドル(約18万円)
  モーソリウム(霊廟)
  納棺一体       850ドル
  氏名彫刻       100ドル
  納棺費用       120ドル

 

デスケア産業の動き

  デスケア業界は3つの分野に分けられる。一つは葬儀を実施する葬儀会社。二つは遺体を火葬にしたり埋葬する業者。三つは墓石メーカーや霊園業界である。アメリカでは個人経営規模の葬儀会館と、地域に密着した霊園が基本の姿であった。その商売は親から子へと継がれてきたものだった。死亡予測も立てやすく、売り上げは安定していた。そうした事情があって、新規参入はむずかしい業種とされていた。
  変化が起きたのは、大企業が個人経営規模の葬儀会館や民間霊園を買収して、地域での総合的なサービスを実施するようになってからである。こうした合併吸収の動きは現在も継続している。ただし葬儀会館の85%は、まだ個人経営であるし、霊園は規制が厳しいので吸収はむずかしい。しかし総合デスケア企業大手5社が、国内の8%の会館と霊園を所有している。

 

さらに成長する大5社

  アメリカにはヒューストンに本社があるサービスコーポレーション社(SCI)を代表とする超大手のデスケア企業が5社ある。それはSCI、ローウェン、スチァート、ECI、カリッジの5企業で、この5社だけで世界中に5千の葬儀会館、1,100の霊園を保持している。1998年の調査によると、1位のSCI社は世界中に葬儀会館3,127カ所、霊園392カ所、火葬場166カ所を経営している。2位はバンクーバーにあるローエン社で、葬儀会館1,068カ所、霊園484カ所、火葬場50カ所である。
  サービスコーポレーション社が経営する葬儀会館の半数はアメリカ国外にある。すでに国内の征服は終わり、この先海外進出が関心の的となっている。

 

サービスコーポレーションの戦略

  サービスコーポレーションは、「ファミリー・フューネラル・ケア」というコンセプトがある。それは家族のための葬儀、埋葬、火葬を、より簡単に自由に選択できるもので、そのプレニード商品(ヘリテージプログラム)には、柩や伝統的な葬儀の他、火葬などのオプションも含まれている。これまで個人の葬儀社は「親しみやすく、低料金」をモットーに経営してきたが、こうした時代は終了し、プロの職員が、配送サービス、ハイテック技術と競争価格で市場を占拠していくと予想している。

 

葬儀から納骨まで一箇所で用がたせる霊園

  葬儀会館は、霊園内かその近くに立てられる傾向にある。それを「コンボ」という言い方をしているが、一企業が葬儀と埋葬(納骨)の両方を一カ所で提供することが狙いである。この戦略をとっている企業は成功を納めているので、この方向はこれからも継続されるだろう。


◎霊園のプレニード

  アメリカ国内の霊園と葬儀複合企業は、事前販売(プレニード)を開発しており、霊園の多くは生前に販売される。フロリダにあるウッドローン霊園と葬儀会館は霊廟のプレニードを行い、カルフォルニアのローズヒル霊園ではテレビでプレニードの広告を行っている。これからの葬儀社と霊園業者は、消費者のために協力していくことになる。

 

「アメリカ霊園協会」が改名

  1996年7月、109年の伝統のある「アメリカ霊園協会」(American Cemetery Association)が、「国際霊園と葬儀協会」(International Cemetery & Funeral Association)と改名された。会長は、この決定が「危機の時代にあって前進するための重要な一歩である」と発言。葬儀と霊園の境界がゆるやかとなり、今後両者の統一により、家族と地域のために果たす役割が強められるという。この会は海外をふくめ28カ国の人が加盟、3カ国の人が理事を努めている。

 

霊園の未来

  アメリカの霊園は郊外に移り、それとともに葬儀会館も郊外に移っていった。しかし最近では霊園内に葬儀場が作られる例が多く、また火葬率が増大すると、火葬場と納骨施設が一箇所に集められた。もともと霊園は公共性の高い施設であるため、葬儀社などの営利団体が経営することは、法律的にもむずかしかった。しかし、教会の運営する霊園内に葬儀社が葬儀場を作ったり、また霊園が同じ名称のまま持ち主だけが変わっているという状況が起きている。

 

多人種霊園

  業界誌『アメリカ霊園』に、霊園販売員の求人広告がのった。ワシントンDCにある二つの霊園が、霊園の事前販売のため、アジア人市場詳しい人を募集するものであった。この霊園の潜在顧客は25万人以上という。多人種国アメリカでは、海外から移住した人のために霊園が販売されているのである。

 

埋葬記録をコンピュータに

  1993年、アメリカのサウスダコタ州キャンベルでは、地域に75以上ある霊園のデータベースを作った。これによって子孫が、両親の埋葬場所がどこにあるかなどの問い合わせに答えることが出来るという。入力されているのは死者の氏名、死亡日、霊園名、埋葬区域など。

 

◎ユダヤ人霊園計画

  ユダヤ人は政治的経済的理由から世界中に移民しているが、ユダヤ人系図協会は、祖先の墓の全世界規模のデータベース化を目指し、「国際ユダヤ人霊園計画」を1994年から始めた。第一段階は、21,000ケ所の霊園の情報を集める。第2段階はどこに誰が埋められているかの情報を整備する。現在775ケ所の霊園での40万人の情報が集められている。収集する情報内容は、氏名、死亡年月日、死亡場所、生年月日、霊園、霊園場所、両親、情報提供者、備考、葬儀会館、伴侶名などである。

 

散骨業許可

  カルフォルニアの職業規制法によると、火葬後の灰を撒くための免許取得には、委員会に届け出が必要である。ただし霊園業者や葬儀社の場合はその必要がない。また年間10体以上でなければ、個人でも撒くことが出来る。
  飛行機から散骨する場合には、連邦航空管理局(Federal Aviation Administration)の許可が必要である。船での散骨には自動車省(Department of Motor Vehicles)などの認可が必要である。
  散骨業社は、毎年9月30日までにその年度の散骨回数と散骨した場所についての報告義務がある。
  また業者は、「遺骨の正当な保管者(遺族)からの依頼書がなくては散骨してはならない」(9743号)などの規則がある。

 

散骨のアンケート

  海での散骨を専業とするスカターリング・アトシー社の調査によると、このサービスを利用した人の71%が、希望の散骨場所がなかったという。海での散骨を希望した70%は男性であった。散骨を希望した人の72 %は、葬儀会館にある広告をみてそこに散骨を依頼している。

 

海への散骨は過熱状態

  カルフォルニア州サンタクルーズでは、過去3年間に海岸での散骨が80%も増えた。増加の理由は「環境に優しい」ことと、墓地が一杯のためらしい。海での散骨は漁船のチャーターに200ドルかかる。海での散骨は50年近く行われてきたが、このところ過熱状態。そのためカリフォルニア州では、州法を改正する動きも出てきている。

 

グリーン・ブリアル

  イギリスで始められた遺体処置の方法。イギリスでは火葬に年間437,000の木製の柩が使用される。これは単に森林伐採だけでなく、大気汚染にも繋がることから、ロンドンに本部のあるナチュラル・デスセンターでは、16カ所の埋葬用地を確保し、そこに遺体を埋葬したあと、墓石ではなく樹木を植える運動を展開している。

 

ペット霊園

  ペットの死骸処理にはいくつかの方法がある。

1. 家庭内埋葬

  家庭の敷地内にペットを埋葬する方法がもっとも一般的である。しかしこれは地域によっては禁止されている。またよく引っ越しをする家庭では勧められない。ペット霊園業者では、自宅埋葬する場合にはペット用の柩を推薦している。

2. ペット火葬

  最近ではペットの火葬がはやっている。火葬したあとの灰は庭にまいたり、骨壷に入れて保管したりする。ただし合同火葬の場合には、多くのペットの灰が混じってしまうので、遺灰は返却されない。

3. 集合ペット埋葬

  もっとも安価な処置の方法で、多くのペットの死骸を一箇所の穴の中に埋葬する。

 

アメリカ人消費者のための葬儀規則

  「毎年、アメリカ人は年間200万件以上の葬式を行う。葬式には何千ドルもかかるので、消費者は料金を支払い過ぎないために連邦条例に注意すべきである。」こうした言葉で紹介されている葬儀規則は、84年に制定され、その後違反した業者を取り締まるため、いくつかの地域で、この規則が守られているかの検査が行われた。

  以下が「葬儀規則」の主な内容である。
  葬儀規則は、連邦取引委員会が制定したもので、消費者は必要とする商品とサービスだけを選び、その費用だけを支払うことが出来ることを示したものである。
  規則によれば、電話でも、個々の品目の費用を知ることができる。
  葬儀について尋ねられたら、葬儀社は商品およびサービスの価格リストを提示しなくてはならない。

●電話による価格公開

  葬儀社間の価格を比べるために、電話で問い合わせができる。
  業界用語、条件、葬儀用品およびサービス価格について、葬儀社は、質問に答え、価格リストを提供しなくてはならない。

●一般的な価格リスト

  葬儀についての質問があったら、葬儀社は葬儀品目とサービス費用を含む、金額明細を提示しなければならない。

●現金払いによる販売

  葬儀社が立て替える商品とサービス内容も、書面で明らかにしなければならない。
  現金支払い項目として、生花、死亡記事掲示、棺の搬送と牧師謝礼金がある。

 

火葬用棺

  消費者は、儀式無しで直接火葬を選択することがある。
  火葬によって棺は消耗するため、代用棺または単なる木箱の使用を望む場合がある。これは土葬用の棺より低価格のため、葬儀費用を安くすることができる。代用棺にはボール紙、キャンバス地のケースがある。
  州の法律では、直接火葬をする場合でも完全な棺が必要であるとは定めていない。葬儀社では直接火葬をする際に、こうした木箱や代用容器でもよいことを消費者に明らかにし、消費者の希望する棺を提供しなければならない。
  葬儀社は、外部で購入した棺を持ち込んだ場合に、料金を請求したり、使うことを拒否してはならない。

●葬儀用品とサービスについての提示

  葬儀社は、販売した葬儀用品およびサービスの、総額と明細書を提示しなければならない。消費者はそれに、あらたな項目を加えたり取り除くことが出来る。

  このようにアメリカでは、消費者運動が発達しており、そのせいで情報公開も徹底しているのである。

 

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