1998.02 |
世界にはいろいろな宗教がある。近年では海外から日本にやってくる人も多く、それとともに宗教を一緒に持ち込み、彼等が死亡すればその宗教で葬儀を行なう事になる。日本では9割以上が仏式葬儀で行なわれているので、その他の宗教の葬儀に参列することは少ない。
今回は、日本でもその名前が知られているヒンズー教、エホバの証人、モルモン教、イスラム教などの葬儀を取り上げた。葬儀にあたっては式場の設備や祭司者がいるかどうかでその在り方が大きく変わってくることが予想される。また主にアメリカでの在り方を取り上げたので、日本で行なわれる方法と異なっていることがあるのでご了解願いたい。
ヒンズー教はインド国民の85%が信仰するといわれ、カルマ(業)を信じ、仏教と同じように個人の生前に行なった行為が死後の生まれ変わりに優劣をもたらすという信仰である。
インドでの自宅での準備は、家族と墓堀人夫、あるいは火葬用のまきを用意する専門家の協力によって処理される。
遺体が洗われた後、リンネルにくるまれる。通常、結婚している女性の遺体は、着色された布にくるまれたあとに花が飾られ、宝石をあしらって彼女の結婚していることを示す。
最後の別れをつげたあと、家から遺体を動かす前に、遺体にオイル、石鹸、粉が塗布される。油を塗るのは遺族の役割である。
こうした儀式が終わると、遺体は棺に入れられることなく共同墓地または火葬場に運ばれる。
時には埋葬もあるが、宗教的には火葬が望ましい手段である。死の瞬間、霊魂が頭骨に阻まれるので、火の力を魂を借りて肉体から解放されるのである。
遺体が燃やされる間、神聖な経典が唱えられる。最年長の男性の親族が、燃えた木を持って火葬用のまきの周りを歩いたあと、火葬用のまきに点火する。そのあとはプロの火葬人に任せる。
火葬した後の3日目の昼間に遺灰を集め、川に行ってこれをまく。こうしてもう一つの生命に再生している人を自由にするのである。
死亡場所から葬儀場に遺体を搬送する場合、宗教上の制限はない。
インドとは異なり、海外での遺体の準備には家族の責任はない。家族の希望にそって葬儀計画と処置が行なわれる。
死装束は通常家族が準備するが、衣類は故人の国籍を反映した民族衣装の場合がある。
一般に棺は、金属か木製かにかかわらず、低価格のものが選択される。それは、ヒンズー教徒が母国で亡くなった場合、火葬が行われ、棺を使わないという習慣からきている。
海外特にアメリカでのヒンズー教徒の葬儀は、ほとんどが葬儀場で行われる。司祭が式典を司どり、祈りと詠唱が行われる。ろうそくや香料が使用される。
遺体処置の方法は、主に故人の共同体に頼ることになる。
ヒンズー教では火葬が習慣とされているので、それが多く選択される。どちらの方法が取られるとしても、家族が重要な役割をし、司祭の助手は墓や火葬場に棺をかつぐ人として仕えている。
共同墓地や火葬場が葬儀場の近くにある時には、家族は葬列の先頭に立って歩く。
アメリカの若干の区域では、家族は火葬場に遺体を運ぶだけでなく、火葬に参加する。
エホバの証人は文字どおり聖書の教えに従う宗教団体である。エホバの証人は、彼らを導く正式の個人や、正式の組織を持っていない。
10人の僧職を授けられた司祭のグループが宗教活動を監督し、主に説教の基礎と個々の教えで構成されている。
よく知られている活動には、彼等のメッセージを家庭に伝道することがある。
またエホバの証人は、輸血を受けることの拒否、国旗に敬礼する拒否などが知られている。日本では1953年に、宗教法人・ものみの塔聖書冊子協会が設立され、本部は神奈川県にある。
信者は自分たちが神によって僧職を授けられた司祭であると信じているので、メンバーの死にさいして特に司祭を必要としていない。
彼らは牧師や神父という名称を使わない代わりに、お互いに彼等の名字に氏あるいは夫人をつけて呼び合う。
故人を死亡場所から運ぶにふさわしい教会はない。葬儀社としては、死の状況にふさわしい通常
の方法に従う。
アメリカでは、エンバーミングが家族に選択されるが、火葬を選択されることもある。この遺体処置の違いが、葬儀それ自身には変化をもたらさない。故人の死装束や棺の選択は、家族に任せられる。
弔問と故人との別れは、家族が希望するなら、標準的な葬儀手順の一部として受け入れられる。
弔問は通常葬儀場で行なわれ、その地域の弔問の慣例や伝統にしたがって行なわれる。
葬儀は葬儀場やエホバの証人の教会で行われる。
葬儀場内のチャペルあるいは王国ホールのいずれの場合でも、棺は通常のように前面の席と平行に置かれる。普通棺は閉じられ、儀式が始まる前に安置されている。
王国ホールでの花の使用は認められている。
退場式の有無は、その区域の習慣によるか司祭者の意向によって行なわれる。
儀式は単純で、十字架、ろうそくなどの宗教的な道具なしで行なわれる。
エホバの証人の葬儀は、通常30分以上かからない。そして経典の朗読と議論に集中する。
使用する音楽は通常歌のないオルガン演奏であり、そして不適当な音楽が使われないためにエホバの証人の賛美歌集が使用される。
埋葬と火葬が、エホバの証人の会員が行う普通の方法である。遺体を処理する際の儀礼では、司祭者によって、最後の数分だけ短い章を朗読し短い言葉を付け加える。
モルモン教は、正式の名前は「末日聖徒イエス・キリスト教会」である。信者数は全世界で800万人。最も大きい組織はユタ州のソルトレークシティーで、アメリカでは300万人以上の信者がいる。日本での心信者数は10万人を超えている。
彼らの権威は一連の啓示として、ジョセフ・スミス(1805〜44)を通して直接彼らの上に与えられたものとされている。
1847年にモルモン教徒は、ブリガム・ヤングの指導で、ユタ州のソルトレークシティーにある現在の本部に移った。
モルモン教徒は、職業牧師はいないが、生活費を受け取る教会幹部はいる。伝道師、地方部、支部などの組織がある。
モルモン教徒のユニークな特徴の一つは、若者は少なくとも2年間、伝道奉仕をすることである。そしてその費用は彼ら自身で支払うのである。
会員の死に際して、教会の高位聖職者に通知することはない。たとえ家族が教会の高官や信者に伝えるために、教会事務官に死亡連絡をしても、特別に教会が主催する儀式は行われない。
死亡場所から遺体を運ぶ場合、葬儀社や教会のスタッフに対する規定はない。多くの場合、アメリカでは葬儀の前には遺体への弔問が行われるので、防腐処理(エンバーミング)が不可欠となっている。
死亡したモルモン教徒のための死装束は、故人が教会の教育過程である寺院儀礼(Temple Ordances)に参加していたかどうかによる。個人がこの領域に達していたら、その記しとして緑のエプロンのついた白の衣類を着せられる。
故人がまだ寺院儀礼を経ていなかった場合、その装束や棺は家族に任せられる。
弔問時間に関して、特別な規制や手引きの指示はない。かって弔問は監督チャペルや家族の自宅で行われたが、現在では葬儀場で行われる。この時、特別な儀式は行われない。
モルモン教徒の葬儀は、葬儀場や「末日聖徒」の公共のチャペルで行なわれる。これらの寺院は公共の崇拝の場所ではないが、結婚式のような神聖な儀式を行うために使われる。
モルモン教会では、葬儀がどのように行われるかというフォーマットはない。
教会は、家族が希望している儀式の方法に従っている。もし葬儀がモルモン教徒の施設で開催されるなら、葬儀社はそこの教会係員と共働して、棺をどこから教会に運ぶか、どこに安置するかなどを決定する。同じく、儀式に使用する生花も地域の習慣に従ってきめる。
儀式のあと、棺が教会から運ばれる場合、家族と友人たちがその後に続く。
モルモン教会は、会員のために埋葬を勧めている。火葬は思いとどまるよう、「火葬の途中、あるいは火葬後にも祈るべきではない」と言っている。埋葬の場合、司祭は普通墓地まで棺を導き、埋葬儀礼の際には棺の頭部に立つ。簡潔な儀式の祈りが終了すると、短い章が朗読される。
イスラム教は西暦622年にモハンメッドの教説より始まった。
イスラム教は「神への服従」を意味する。イスラム教はトルコ、北アフリカ、マレーシア、パキスタン、バングラデシュとインドネシアの主な宗教である。イスラム教の聖典である「コーラン」は、大天使ガブリエルによってモハンメッドに書き取らせられた神の言葉であると言われる。
死亡した時点でイスラム教の共同体のメンバーは、より大きな共同体から独自に、お互いが助け合っている。これらの助け合いは、人が死にかけている時に見られる。その時には、イスラム教の「信仰箇条」が死者に対して読まれる。
法律と死亡した施設の規則に基づいて遺体搬送が行われる。「コーラン」に、死後の故人の配置
について家族に指示がある場合、葬儀社はこれらの指示に従う。
遺体が死亡場所から葬儀場に運ばれたあと、遺体を防腐処理する場合には、家族の許可を必要とする。防腐処理されたあと、家族は、弔問と葬儀の前に、遺体を洗うために葬儀場に来る。
コーランによれば、死者の清めには次の規定がある。
1.死者の陰部を三回、それぞれ新しい布で洗う。
2.未使用の濡れた布で死者の口を洗う。
3.未使用の濡れた布で鼻孔を洗う。
4.死者の顔を洗う。
5.右手と左手を洗う。
6.局部を洗う。
7.右足と左足を洗う。
8.頭のてっぺんからつま先まで全身を洗う。
故人の遺体を洗ったあと、白のモスリンの布で遺体を包む。この布で故人の顔と手を覆わないようにして、遺体を完全に覆う。
家族が選択する棺は簡単な木製の棺が用いられ、それには棺を覆う布も含まれる。イスラム教の本場の葬儀では、死者は棺を用いず、たんに白いモスリンの布に包まれたままで埋葬される。
弔問時間は通常1時間に制限される。この間すべての家族は出席し、棺は開かれている。これは通常、葬儀場で行われる。
たいていのイスラム教の葬儀は共同墓地で行われる。葬儀は聖日以外はいつでも行なわれる。棺は家族の男性の一員によって運ばれ、埋葬する場所から50フィートくらい離して置かれる。
棺は南北に、頭を南に向けて置かれ、顔面は東に向けられる。棺はおよそ葬儀のために開けられ、およそ20分を要する。葬儀の祈とうは Jamazah Namaaz と呼ばれる。アラーへの祈りが、男たちのみによってなされる。
葬儀の終わりに棺は墓穴に下げられ、しっかりと埋葬される。
[イスラム教の哀悼に対するメモ]
女性たちは4カ月と10日間、喪に服すよう指示される。その期間に、彼らは地味な服を着、どんな娯楽にも参加することを禁止される。男たちは、3日間だけ哀悼するように指示される。
軍の葬儀といえば、日本では自衛隊ということになるが、今回は勘弁してもらってアメリカの軍隊の葬儀についてのべた。
軍葬に処せられるには、資格があるかどうか重要となるが、軍の業績と故人の地位(退職、在職)も大きな要因となる。
それぞれの軍隊の基地が葬儀部門をもっている。葬儀の部門に割り当てられたメンバーは、正確で威厳のある役割を果たすために、大規模で徹底的な訓練をする。
軍葬の多くが、退役軍人のために行なわれ、その故人が属していた部隊が指揮する。軍葬には教会と埋葬儀礼の両方を含む、完全な軍葬がある。しかし、多くの場合、埋葬儀礼だけという軍葬で行なわれることが多い。
この儀礼にあずかることは、家族にとって、故人が国に行った奉仕に対して敬意が払われるという満足が得られる。
軍の埋葬儀礼は、どんな軍隊の所属員でも利用できる。軍隊の在籍員が死亡した場合、軍は家族
と連絡を取り、家族の希望通りに軍葬の準備が始められる。
もし故人がすでに除隊していた場合、家族は故人が属していた部隊と連絡を取り、完全か、部分的な軍の儀礼を要請できる。
葬儀資格が認められると、葬儀社は軍の葬儀部と葬儀の準備にとりかかる。
もし故人が退役軍人であったら、葬儀社は家族あるいは医療施設のスタッフから死亡通知を受け取る。
故人が軍隊の支部でまだ現役なら、葬儀社は死亡通知を家族、あるいは家族の代わりに軍の葬儀部から受けることがある。
葬儀社は、まず故人が現役か退役軍人であったかどうかを確認する。
もし故人が現役であったら、遺体搬送、遺体の準備、そして死化粧や納棺のすべてが、軍葬儀部門によって処理されることがある。もし故人が退役軍人であったら、葬儀社は他の故人と同じように、死亡場所からの遺体搬送や遺体準備を行う。
葬儀社が遺体を準備する場合、遺体準備の許可とその範囲を家族から得る必要がある。この場合、軍は遺体準備の内容や方法を決定する役割を演じない。
死装束と故人の納棺は、軍隊の葬儀式典部の援助を受けられる。これは故人が、現役勤務についていたという実績があれば一般にそうしている。
この場合、故人は軍の制服を着用し、政府によって供給された棺に安置される。
故人が退役軍人であった場合、衣装と遺体を安置する仕事は、一般に葬儀社の仕事となる。葬儀社の責任は、家族が選択した衣類を遺体に着せ、家族によって選択された棺に納棺させることである。
軍人や退役軍人の弔問の時期は、その区域の習慣や、故人が属していた宗教の習慣が考慮される。
軍隊在籍中の場合は、弔問の間、その隊の一員が儀仗兵の役を勤める。
合衆国の国旗は、棺が閉じられている場合には、棺に掛けられる。棺が開いている場合、国旗は棺の下半身部分を覆うことになる。または旗が三角の形に畳まれ、頭部のパネル、あるいは台座のそばに飾示することもある。
完全な軍葬は、祭壇のある建物のなかで行われる。牧師が聖書の一説を読み、次に身分の高い軍人による弔辞がある。次に牧師による祈りのあと、全員が起立してオルガン演奏のうちに、棺が付き添い人によって先導されて退場する。そのあと棺は霊柩車に乗せられ、墓のある霊園にと向かうのである。
軍の葬儀隊が霊園の埋葬予定の場所に到着する。あらかじめ墓穴は掘られてあり、会葬者の椅子などが並べられている。関係者はラッパ手と射撃班、礼拝堂勤務の牧師、棺をかつぐ人、そして旗持と護衛からなる。
棺運び人が棺を墓穴のうえの装置におくと、礼拝堂勤務の牧師、あるいは牧師は経典を朗読し祈とう式を続ける。
射撃班が21発の弔砲を撃ち、ラッパ手が永別の合図を吹きならす。そして牧師が最後の祈りをとなえてから参列者に祝祷を与える。そして棺に置かれた国旗が取られると、儀隊の指揮官によってたたまれ、家族の一人に捧げられる。
国旗を手渡すとき「あなたの亡き人の、職務に殉じた記念として国家よりこの旗が贈られます」と告げる。こうした場面は映画にもよく登場するので記憶されている人も多いだろう。
このように団体による葬儀は、死者には名誉が、彼が属している団体にはその権威が参列者によって再確認されることが理解できる。