1995.08
事前葬儀設計

  最近、個性的な葬儀をしたいという声が多くなっている。これは葬儀が形式的である、感動しない、などの理由から起きているが、だからといって一昔前のような葬儀無用論とも違う。葬儀は必要であるが、もっと個性的なものをしたいと思っているのである。しかしそう望んでもそれを実施している人は、そんなに多くはない。その理由としては3つ上げられる。
(1) 個性的な葬儀をしてくれる葬儀社がない。
(2) 亡くなった人が「こんな葬儀をしてほしい」という希望を残していない。
(3) 死は急な事態であるから、ゆっくり考える余裕がない。
  これが実態である。しかし最近、マスコミでも葬儀の事前契約、自由な葬儀というものを取り上げており、一般の人々の関心を引いている。確かに死が訪れてから考えていては、個性的な葬儀というものはむずかしいが、あらかじめ葬儀を準備しておればそれはむずかしいことではないように思われる。

  では個性的な葬儀を実施している先進国のアメリカではどうであろうか。それを見ていきたい。


伝統的な葬儀と個性的な葬儀

  アメリカでは、南部や東海岸など伝統を大切にする地域では、昔ながらの葬儀が残されているが、サンフランシスコなど西海岸の都市部では、火葬が増大して伝統的な葬儀が少なくなってきている。 

  「葬儀は伝統に従わなければならない」というルールも失われ、また伝統的な葬儀のやり方を知っている人も少なくなっている。しかし、もし伝統と異なる葬儀を望むなら、それに変わるものを作らなければならない。そのためには、それに協力してくれる葬儀社を見つけなければならない。

  『葬儀は生きている人のためにある』、というのが現在の葬儀の傾向である。しかし、死んでいく人の最後の望みの方が大切もっとにされる。しかしそのためにはあらかじめ自分がしたいと思う葬儀を決めなければならない。そしてその希望を葬儀社に伝えなければならない。それをすることが、人生の締めくくりとなるかもしれない。 

  さて以下は葬儀場で行なわれた特別な葬儀の例である。


●残された子供たちのために企画された葬儀

  葬儀は死者の知人・関係者が多く集まり、残された子供たちのために行なわれることは少ない。しかし次にあげるものは、子供のために特別に考えられた葬儀である。

  父親のフイリップが癌と診断されたとき、子供たちのロスとブランドンはまだ2歳であった。そして翌年に父親が死んだ。彼らの母のビバリーは夫の死ぬ前に、2人の子のための葬儀について話し合った。夫は子供たちが死を理解する助けとなると思い、同意した。彼が死んだあと、ビバリーは、牧師と葬儀社に特別な葬儀が出来るかどうかをたずねた。

  彼らはびっくりしたが、それを行なうことに同意した。ビバリーは子供たちのために葬儀をすると友人や家族に告げ、子供たちが望むなら、彼らを連れて来ることは自由であると言った。およそ3歳から7歳の子供たち25人以上が葬儀場に現れた。

  葬儀は日曜日に行なわれた。喪主のビバリーは、会葬に来た子供たちに、感謝の言葉を述べ、彼らに次の部屋に入ると、棺に彼の遺体が横たわっていると説明した。彼女はそれにつけ加え、子供たちが遺体を見たあと、眠りに対する恐怖を除くために、死は、眠ることとは違うことを説明した。子供たちが希望するなら、遺体に触れてもよいといった。次にピート牧師は、死について彼らと話し、泣いたり、知りたいことはどんな質問をしてもよいと言った。

  子供のために折畳椅子が、棺の前に置かれた。どの子供も椅子に乗って、フイリップの体に触った。次に牧師と両親と子供は床に輪になって座った。そして牧師はさなぎと繭とチョウについて話した。彼はチョウのように肉体から魂が抜け出ると説明した。それから彼に、多くの子供が質問をした。

『どこに天国はあるの?』
『彼は天からぼくたちを見ているの?』
『彼と話すことができるの?』
『彼はなぜ死んだの?』
『彼はどのように癌にかかったの?』
『彼はどこで死んだの。そして彼の遺体は、どのように葬儀場へ着いたのか?』
『我々はどうして遺体を埋めなければならないの?』
『彼は天国で歩いたり車を運転することができるの?』
『彼は現在幸福ですか』
  ビバリーと両親と牧師による答えは、オープンで正直だった。参加した子供たちの両親のほとんどがすすり泣いた。式は30分間ほど続いて、そして全員の合唱で『私を愛すイエス』を歌って終わった。そのあと子供は、棺に花を入れた。

(資料:キャサリーン・サブレット著『ファイナル・セレブレーション』)

 

●ジャズ愛好家の葬儀

  マイケルは子供の頃からサキソホーンを演奏し、ジャズを愛していた。彼が不治の癌と聞かされたとき、マイケルは妻に、2つのことを依頼した。一つは彼の棺のなかに、サキソホーンを納めること。そして出棺の時には、彼の大好きなジャズのカセットを流すこと。お別れと葬儀に出席した誰もが、すばらしかったと述べた。これくらいのことは日本の葬儀でも珍しくない。ただし火葬をする際に楽器を入れたままにすることは出来ないだろう。

 

●古典的なアイルランド式葬儀

  次の葬儀も『ファイナル・セレブレーション』からとった。

  アイルランド人のリチャードは、シカゴの南部で育ち、そして何年もパブを経営していた。彼は、誰にでも彼の祖国に対する愛情を伝えた。あるとき彼は、友達(葬儀社)に伝統的ななアイルランド様式で葬儀をすることを頼んだ。友人の一人が宴会係を引受け、葬儀場にバーと食卓を設置した。家族と友達が到着したとき、会場には祝賀会の雰囲気があり、彼のために多くの人々が乾杯をした。

 

●愛犬と共に

  ドロシーという女性は大変な愛犬家であった。彼女が未亡人になって以来、犬が彼女の仲間であった。彼女はある朝目覚めた時、犬が死んでいるのを見た。そして隣人が、裏庭に死骸を埋葬してくれた。その後で彼女はある考えを思いついた。犬を火葬にし、彼女が死んだとき、彼女と一緒に犬の 骨灰を埋葬する。これが可能かどうかを葬儀社に尋ねた。葬儀社がやってきて、庭から犬を掘り出し、火葬するために 犬の火葬場へ持って行った。葬儀屋とドロシーは、彼女が死んだとき犬の骨灰を彼女の特別のコンテナである棺に入れることに同意した。彼らが死んだあと再び一緒になれると知ることは、彼女に大きな慰めを与えた。

 

●9つの領域に火葬灰をまく

  ロバートは彼が62歳のとき、自分のための事前葬儀を準備した。ロバートの死後、葬儀社がそれをチェックした結果、彼の最後の望みに驚いた。彼は火葬を望み、彼の火葬灰をアメリカ合衆国の9つの異なる場所でまいてほしいと願った。葬儀社は、これらの望みを実行した。9つの 別々の容器に入れて、頼まれた場所にそれをまいたのである。彼の弟は葬儀社に、最後の望みについて尋ねた。葬儀屋は、ロバートの資料を彼に見せた。彼の弟は、涙を抑えることができなかった。彼は ロバートがそのように時間をかけて、早めに準備したことを大変喜んだ。
「もし ロバートが事前設計をしなかったならば、何を行なうか、彼の最後の望みが何であったかを知らなかった」
  彼は兄の生き方に感動していて、後で彼は自分の葬儀プランをした。

 

●火葬灰を預かります

  ロンドンのリトル・パブ社は、経営する酒場の1つで顧客が死に、それがニュービジネスのヒントになった。顧客は8000ドル(68万円)で、長年通った大好きな座席の下に彼の火葬灰を安置することができ、毎年乾杯を受けられるというもの。火葬灰はパブのどこにでも安置することができる。費用には、骨壷と 銅製の壁掛け板と毎年の追悼会が含まれる。

 

  次にはオールバリー著『上手な死に方』(二見書房)の六章に、手作りの葬式という章がある。そこから個性的な葬儀を拾ってみた。

●仲間による埋葬

  小説家のケン・キージは交通事故で死んだ息子の葬儀を行なった。葬儀には300人位が集まった。死者の母親がコピーした讃美歌を手に皆が歌い、一人がバイオリンを演奏した。そして棺が墓穴まで運ばれると、皆が列を作って棺のなかにそれぞれの品を納めた。それらは銀の笛、腕時計、スナップ写真、新約聖書などであった。そして詩を読み上げるなかで、青年たちはポケットに入れてきた釘を一本ずつ打ち付けた。友愛会の会員たちは酒の入った杯を回し飲みして別れを告げ、ロープで棺を墓穴へと下ろした。

 

●自分たちで作った棺

  イギリス人ディドラ・マーチンは母親の葬儀をした。彼女はブライトンの火葬場に出向き、自分で棺を作り、葬儀の手配をしても構わないことを聞きいた。長女はお茶の時のケーキを焼き、母の人生を表す写真や晩年に描いた絵を展示する係。弟はステーションワゴンに棺を積む係。他の家族は葬儀で母の愛読書を朗読する係というふうに各自が分担して行なわれた。葬儀の時間は30分で、献花は辞退したが、花篭にドライフラワーを盛り、棺の上に飾られた。そして葬儀は火葬場の礼拝堂で行なわれ、そのあと遺体は火葬になった。

 

●一人一輪の花

  白血病で八歳で死亡した子供の葬儀では、友達が彼女のために描いた絵が教会の回りにずらりと貼られた。人々は持参した花一輪を棺の上に供えた。そして数人のこどもたちが詩を読んだ。参列者全員に、キャンドルと、黄色いスイセンが渡された。墓での祈りがすむと、墓穴に一斉にスイセンが投げ入れられ、みんなで一緒に「主の踊り」が歌われた。

 

式典を計画する

  突然身内の死を迎えた場合、あらかじめ葬儀設計が準備している人は少ない。遺族も故人の望みが分からない。そこで聖職者や葬儀社に計画を一任することになる。しかし、これからは自分の葬儀を計画する人が増えてくるように思われる。そこで次に、自分自身、あるいは故人の葬儀計画のための概略を示した。
  資料は同じくキャサリーン・サブレットの『ファイナル・セレブレーション』である。

1.葬儀委員長を決める。

葬儀のプロの牧師、あるいは家族の一員か友人のなかから決定する。

2.故人の家族と友人から話を聞く。

  彼は何を愛していたのか?彼の関心や趣味は何であったのか?彼の目標(将来に対する望み)は何であったか?彼の貢献したことは?彼が大好きだった趣味と歌と音楽と文学と詩は何であったか?人生での幸福な時と出来事、などについて話し合い、家族と友達を励ます。それは葬儀の目的の一つである。
  彼の逸話を探す。ユーモアを交えて表現する。かつてこの人が言った、あるいは行なった最もおかしいことは何であったか?これを弔辞のなかで発表することによって、故人についての感動的な話を誘発することができる。
  愛する人を失ったことを認知させる。そして重要なことは、生存者が希望を失わないことである。故人について好意的、及び非好意的な話をすることで、生存者は死を受け入れる一歩を歩み始める。

3.葬儀の方針の決定。

  この人は信心深かったかどうか?伝統的な儀式を好むか?これを決めると、弔辞や音楽の選定に役立つ。例えば、伝統的なキリスト教の葬儀には、『詩歌』か『主の祈り』がふさわしいし、現代風の葬儀では、ロック音楽を使うかもしれない。

4.葬儀会場の決定。

  教会か葬儀場か他のチャペルか?あるいは屋外か、故人の思い出の場所でも可能である。

5.弔辞を読む人の決定。

  牧師、地域の指導者、家族の友人でもよい。人は、弔辞は亡き親友を賞賛することであると思っている。

6.儀のフィナーレを決める。

  墓地で式典を行なうか。海で火葬骨をまくのか。特別のイベントを計画することもある。海で火葬灰をまいたり、まいた火葬灰の上に植樹することも一つである。またその後の会食はどこで行なうか。

 

告別式の概略

開始

  雰囲気にふさわしい音楽の選曲。故人の気に入りの曲。歌(独唱者、聖歌隊、合唱)、生演奏(ピアノハープ、フルート、オルガン、ギター)又はレコード。

朗読

  キリスト教の儀式では聖書が読まれることが多い。また故人の希望した文章を使う。式辞は、故人の死を認め、生存者に対する慰めが主題となる。

音楽

  好きな音楽を式典中、またはその前後に演奏する。会葬者は、賛美歌などを一緒に歌う。独唱者が、故人の希望曲を歌う。

哀悼文

  哀悼文は、故人の人生と業績を思い起こさせ、残された家族と友人に希望と慰めを提供する。出席した人々は、故人との体験を話題にし、一緒に過ごした幸福と悲しい時を思い起こす。

展示

  会葬者に写真、ビデオ、スライドを見せることがある。亡くなった人を記念するものを作り上げる。特別の音楽や詩、故人が愛した言葉、そして彼の人生を表すものは何か。ある葬儀では、故人の書いた文章が読まれた。

献灯

  家族と友人が一つの炎から、遺影又は棺のそばにあるローソクに献灯する。

終了

  司会者は2、3の言葉を述べる。あるいは人々が再びグループになって歌う。

墓地

  祈りは故人のために墓地で行なうことがある。聖職者の祈りのあとに、再び音楽を流すことがある。火葬の場合、納骨か火葬灰の散布の際、再び集まることもある。

食事会

  家族と友達が、家か教会かホールに集まり食事を共有する。

 

葬儀設計に際して決める項目

  次の項目はウェスナー・アソシェーションが考案した、葬儀設計書のなかの選択項目である。

1. 特別の遺言の確認
2.葬儀社の選択
3.墓地の選択
4.納棺時に一緒に入れる物の選択
5.棺の選択 
6.埋葬用保護ケースの選択 
7.死装束の選択 
8.供花の選択
9.追悼式の計画
10.埋葬許可書の確認 
11.死亡証明書の発行
12.新聞への死亡広告
13.棺の付き添い人の選択 
14.葬儀の種類(軍葬など)
15.聖職者への依頼
16.葬儀時間と場所の決定
17.特別の詩篇と音楽の選択 
18.オルガン奏者への依頼 
19.式文のための故人の情報収集
20.葬列参列者の選択

  これをみると、無宗教に近い葬儀ほど、アメリカと日本の儀式に差が見られないようになる。

 

葬儀の一般的な定価表(1992年)の例

  次の表は、葬儀に必要な項目とその費用を表したものである。棺一つとっても、値段に幅があるので、単に棺と書き残しただけでは、料金の設定は出来ない。そこで、値段が決められているものについては問題ないが、棺のように値段に幅のあるものについては、あらかじめ、○○はいくらくらいのものというように指定しておくとよい。もっともそれがどのくらいの品質のものであるかを、あらかじめ確認しておくと、より希望に近い設定が出来る。次のものはアメリカにおける一般的な葬儀価格である。(資料『ファイナル・セレブレーション』

私の葬儀/葬儀の指示(資料:ウェスナー・アンシェーション)

 

準備での希望

1.式の会場  □教会  □斎場のチャペル  □墓場  □他

教 会 電話

聖職者 電話

葬儀場 電話

墓 地 電話

電話

 

2.葬式での選択 葬式証明書番号_____

通夜  □家族と友達   □家族のみ   □なし

喪主 電話

通夜時間


死装束 □はい □いいえ 国旗 □はい □いいえ

組織名

車  □先導車  □牧師の車  □生花車  □家庭用リムジン

 

 

■最小限のサービス…695ドル

(葬儀の準備、家族や聖職者との相談、そして必要な通知書類の作成、葬儀監督と従業員による立会・代行を含む)料金には、火葬、埋葬、遺体移送と受取りを含む。

■追加サービス…125ドル

(葬儀や追悼式の手配 、教会や墓地、納骨場での儀式での付き添いが含まれる)
週末・休日、あるいは時間外のサービス料金…100ドル

■防腐処理(エンバーミング)…125ドル

防腐処理は、特別なケースの外は、法律でも強制されていない。

■その他のケア…100ドル

防腐処理を施さず冷却が必要の場合。
他の遺体の準備…75ドル(お別れの準備と納棺を含む)

■設備…100ドル

遺体とのお別れの設備、葬儀や教会での式進行、その他屋外での飾り付けなど。

■遺体移送…(50マイル以内)

遺体移送車(霊柩車)…150ドル
運搬車(生花バン)…110ドル
リムジン(最小限3時間)…175ドル
実用車…100ドル

■他の商品

礼状カード(50個入り )そして会葬者名簿…15ドルから65ドル
記念カードまたは記念フォルダー(100個について)35から50ドル
棺費用…395ドルから 18,000ドル
他の埋葬コンテナ…380ドルから9,143ドル

■火葬…669から1,690ドル

50マイル内の遺体搬送と葬儀監督とスタッフの最小限のサービスを含む。
火葬(葬儀なし)家族が用意する容器の場合…669ドル
火葬(葬儀なし)代用容器…806ドル
家族による配達で日時指定の場合…739ドル
火葬と埋葬地での式典…839ドル
葬儀をする火葬…995ドル   (チャペルの使用と付き添い人を含む)
火葬にお別れの遺体安置…1,095ドル
  (防腐処理と他の準備=別れ、式典、設備、人員、音楽を含む)
火葬された散骨(航空機)

■海での散骨…130ドル

50マイル範囲内の散骨…50ドル
積載証明書つきの遺体移送(国内)…50ドル
航空機による搬送…75ドル
  (施設への故人の輸送、葬儀社とスタッフによる最小限のサービス、不可欠な設備と輸送料金を含む)

■最小限のケアサービス

別の葬儀場へ移送する…754ドル
別の葬儀場からの受け取る…729ドル


  消費者運動の発達しているアメリカでは、何事によらず消費者の知りたい情報が完備しており、それは葬儀料金についても同様である。情報ネットワークの普及により、異なった州の葬儀料金が一目で分かるために、葬儀料金は明確にならざるをえない。日本でも、これからますます盛んになるコンピュータ情報網の普及のなかで、葬儀の料金や葬儀での知りたい事柄が、オープンになってくに違いない。

 

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