1993.02 |
核家族時代の影響から、最近では仏壇のない家庭が珍しくなくなりました。新しく仏壇を購入する場合は、家を新築したり、あるいは初めての死者が出た時を機会にして、位牌を祀るために仏壇が求められるのです。こうした家庭では、普段から仏壇にお祀りする習慣がないために、仏壇の飾り方がわからないのが圧倒的です。また違った位置に並べたり飾っているコトも少なくありません。
しかし少なくても自分の属する宗派の、お位牌と三具足(花・香・ローク)、そして仏飯(または茶器)の位置は知っておきたいものである。そこで今回は、「仏壇の荘厳あ(しょうごん)の仕方」として、各宗派で日常勤行や仏事に配置する、基本的な仏壇の飾り方を特集しました。
図のなかでは、本尊や脇侍、吊り燈篭、瑶珞など、細かな道具の位置も知るさなければいけないのですが、わかりやすくするために、普段取り替えたりして動かす仏具、祭具を中心に記しました。
仏壇は、崇拝の対象であるお釈迦様や阿弥陀仏などのご本尊をお祭りすることを目的に準備され、古くは白鳳時代にさかのぼります。西暦686年に天武天皇の「諸国家ごとに仏舎を作り仏像及び経を置き、礼拝供養せよ」と詔が出されました。
日本の現状は、祖先信仰という風土のなかで、祖先の位牌を安置しそれを祭る役割の方が重視されているようです。現在、僧侶が仏壇の前で読経を行っていますが、こうした形が定着したのも、所によっては明治以降のことで、それまでは仏壇があっても、盆棚などに向かって経をあげたりしていました。江戸時代に普及した庶民の仏壇は、浄土真宗や日蓮宗の場合は本尊を祭るためでありましたが、それ以外では多くは位牌棚として使われていたようです。
仏壇の構造は普通上中下の3段になっています。最上段には須弥山を形どっている須弥壇(しゅみだん)があり、この須弥壇の上にご本尊を祭る空間である宮殿(くうでん)が広がっています。この中に絵像や仏像のご本尊をまつり、左右のお脇掛には、宗祖などの絵像が掛けられます。この須弥壇の上には上卓(うわじょく)が置かれ、仏飯器や茶湯器などが供えられます。
2段目は中央に前卓が置かれ、その上に三具足や五具足を飾ります。3段目は最下段で香炉や花立てなどを置きます。この他、仏壇の前に経机を置き、そこに経本、リン、香炉などを安置します。仏壇の荘厳の仕方や、位牌の位置などは、宗派や地域によって様々であるので、ここに上げたものはあくまでも参考資料と捉え、実際はその地域の宗派の寺院にご教授願うことが必要かと思います。
上段中央にご本尊の阿弥陀如来を、向かって右には高祖・天台大師、左には宗祖・伝教大師の絵像が掛けられます。本尊の前には茶湯器が供えられます。中段には中央に高炉、その両脇にろうそく立てなどが飾られます。左右に位牌をまつります。下段には中央に過去帳、霊供膳、左右に花立を飾ります。経机には香炉、鈴、線香さし、数珠などを置きます。
朝の勤めには仏飯を供え、ろうそくをともし、線香を1本か3本立てます。次に
(1)三礼
(2)奉請
(3)表白
(4)懺悔
(5)発願
(6)開経偈
(7)法華経「寿量品」など
(8)敬礼
(9)結願
(10)念仏
(11)回向文を誦経します。
仏壇の荘厳は寺院の堂内の荘厳形式に対応するといわれますが、果たしてそうなのかを確認してみたいと思います。また仏壇の配置の理由やお供物の内容もこれが基本となっていると思われます。標準的な堂内の配置は、中央正面に須弥檀を置き、本尊が置かれています。三尊形式の場合、向かって右が上座で、本尊が釈迦牟尼仏の場合、右が文珠、左が弥勒、本尊が阿弥陀如来の場合は右が観音、左が勢至菩薩とします。本尊には茶台で茶湯を献じます。尊像には生御膳を献じます。両脇侍にもそれぞれ供養を献じられます。霊には生でなく煮炊きした生身供を献じます。
須弥壇の前方左右に釣燈篭を下げて献燈します。仏前には戸帳をかけます。開帳という言葉はこれを開けることから出たものです。
須弥壇の前には前机が置かれ、上に三具足(中央香炉、右燈明、左華瓶)、五具足の場合には香炉を中心に、左右に燈明一対、華瓶一対となります。法会の時には、卓上に打敷を掛け、これらの間に三宝に盛った菓子、果物を献供します。天台宗は密教も兼ていますので、前机の前に密壇が設置せられ、そしてその上に閼伽(あか)、塗香、華鬘、供花、灯明、飯粥、汁羹、餅、菓子などが左右一対で並べられます。次に礼盤を中央に左に左脇机には香炉、香合、経本が置かれ、右脇机に磬(楽器)が置かれます。
(高野山真言宗)上段中央にご本尊の大日如来を、向かって右側に宗祖の弘法大師を、左には大日如来の化身である不動明王の画像をまつります。本尊の前に茶湯器、仏飯器を供えます。中段の中央に過去帳、左右に位牌をまつりますが、真言宗のみ(インドの礼法にならって)向かって左に古い祖先の位牌を、右に新しい祖先の位牌をまつります。下段には前机を置いて内敷を敷き、香炉を中心に、ろうそく、花立などを飾ります。仏壇手前には経机を置き、香炉、ろうそく立て、花立て、鈴などを置きます。なお真言宗は分派も多く、それぞれまつり方も多様ですので、細かいことは菩提寺にたずねることが大切です。
朝の勤めには仏飯を供え、ろうそくをともし、線香を3本立てます。鈴を二つ打ち次に
(1)合掌礼拝
(2)懺悔
(3)三帰
(4)三竟
(5)十善戒
(6)発菩提心
(7)三眛耶戒
(8)開経偈
(9)般若心経
(10)本尊真言
(11)十三仏真言
(12)光明真言
(13)宝号
(14)祈願文
(15)回向で終わります。
上段中央にご本尊の阿弥陀如来、脇侍に向かって右が観世音菩薩、向かって左が勢至菩薩。さらに高祖善導大師(右)宗祖円光大師(左)の像(掛け軸)を安置することもあります。位牌は上段の左右です。中段には前机を置き、そこに四角い内敷を敷き、五具足(中央に香炉、左右にろうそく立て、花立てを一対ずつ)又は三具足を並べます。この下中央には霊供膳が置かれ、左右には生花が供えられます。経机には香炉、線香差し、鈴などが置かれます。
朝の勤めには仏飯を供え、ろうそくをともし、線香を立てます。次に
(1)香偈
(2)三宝礼
(3)三奉請
(4)懺悔偈
(5)開経偈
(6)無量寿経のなかの四誓偈
(7)回向文
(8)一枚起請文
(9)摂益文
(10)念仏一回
(11)総回向文
(12)総願偈
(13)三身礼
(14)送仏偈。
本堂正面に須弥壇が置かれ、さらにその中央に宮殿が聳え立つています。本堂の本尊は阿弥陀仏がほとんどで、阿弥陀一仏の場合と、阿弥陀三尊形式の場合もあります。須弥壇の上の上机には本尊に供えられた茶湯器と、供物、手前に香炉を中心とした五具足が供えられ、その手前の大前机にも同じく香炉を中心とした五具足が供えられているのがわかります。こうした配置のミニチュア版が家庭の仏壇であることがわかります。
仏壇の形も同じ浄土真宗でも、大谷派では宮殿にもこしがついていて二重屋根のように見えるのに対し、本願寺派では、宮殿にもこしをつけません。
さて上段中央にご本尊の阿弥陀如来の画像を掲げ、右脇に十字名号、左脇に九字名号を掛けます。上段に前方左右に華瓶(けびょう)一対、中央に火舎香炉、その前に香盒(香入れ)を飾ります。上卓
の華瓶には樒(しきみ)を供えるのが正式です。中段には前卓を置き、卓の上に、五具足の場合(中央に土香炉、そして鶴亀の燭台、花瓶それぞれ一対を飾ります。三具足の場合向かって左が花瓶、右に燭台を飾ります。また燭台の鶴亀の方向は常に仏壇の中心に向かっています。過去帳は向かって左です。内敷は法事以外、平常には用いません。勤行用の備品として、鈴(りん)それから「正信偈」「三帖和讃」「御文五帖一部」が必要です。
仏壇の前に座り灯明をともし、ろうそく、線香の順に火をつけます。線香は香炉の大きさに合わせて折り、1・2本横に火のついた方を左にして灰の上に置きます。
(1)「正信偈」を読誦
(2)「念仏和讃」を唱えます
(3)「回向文」を唱えます
(4)「御文」
年忌法要の荘厳は、内敷は前卓、上卓などみな掛けます。色は紅、紫、金欄いずれでもよいとされています。ろうそくは一周忌から朱蝋にします。祥月命日のろうそくは白でよいようです。
上段中央にご本尊の阿弥陀如来の画像を掲げ、右脇に十字名号、左脇に九字名号を掛けます。または親鸞聖人(右)蓮如聖人(左)をかけることもあります。上段に上卓を置き、中央にろうそく立て、前に火舎香炉、その左右に仏飯器、華瓶各一対を飾ります。この華瓶には樒(しきみ)をさします。中段の前卓には香炉と一対のろうそく立て(鶴亀のデザインではありません)、花瓶の五具足を飾ります。下段右に過去帳を安置します。経机(和讃卓)の上には正信偈、和讃を御和讃箱に入れて置きます。過去帳は年回法要や亡き人の命日にあたる日のみ用い、普段は引き出しのなかにしまっておきます。
お勤めは
(1)「正信偈」を読誦
(2)「和讃」六首を唱えます
(3)「御文章」
(4)「領解文」を唱和します。
上段中央にご本尊の釈迦ム尼仏、脇掛として向かって右に禅宗の開祖の達磨大師、左に観世音菩薩をまつります。また向かって右に三尊仏の画像をまつることもあります。茶湯器と霊供膳を本尊に供えます。中段には先祖の位牌をまつります。中央に過去帳、左右に位牌です。下段には前机を置き、五具足(香炉を中央にろうそく、金れんげを各一対)飾ります。仏壇手前には経机を置き、香炉、鈴などを置きます。臨済宗には多くの分派がありますので、菩提寺の住職に相談されるのが確かです。
仏壇の前に座り灯明をともし、ろうそく、線香の順に火をつけます。線香は2本以上立てます。それから鈴を3度鳴らして合掌、読経に入ります。
(1)「般若心経」を読誦
(2)「消災呪」を3回
(3)「本尊回向」
(4)「妙法蓮華経普門品偈」
(5)「先祖回向」
(6)「四弘誓願文」を3回。
焼香の場合、回数は1回で、頭におしいただくことはしません。次の図は霊供膳のならべかたで、命日などの特別な日に供えます。
◇曹洞宗の場合
上段中央にご本尊の釈迦牟尼仏、向かって右に道元禅師、左には太祖・螢山禅師の絵像がまつられます。この両禅師のななめ前に位牌が安置されます。中段には五具足(中央に香炉、左右にローソク立て、金れんげが各一対)が置かれます。下段は中央に過去帳、香炉、左右に高杯、左に生花、右にローソク立てが配されます。
朝のお勤め
(1)合掌礼拝
(2)開経偈
(3)懺悔文
(4)三帰る礼文
(5)三尊礼文
(6)般若心経
(7)本尊回向文
(8)修証義
(9)先亡精霊回向文
(10)四弘誓願文
(11)合掌礼拝
焼香場合、回数は2回で、最初抹香を頭におしいただき、次はおしいただかずに香炉に入れます。
上段中央にご本尊の大曼荼羅または三宝尊を、その前に日蓮聖人を祀ります。三宝尊は、向かって右が多宝如来、中央に「南無妙法蓮華経」の題目、左に釈迦如来の画像をまつったものです。三宝尊をまつった場合には〈脇掛〉に大黒天(右〉鬼子母神(左)をまつることもあります。位牌はご本尊より一段低い所の宗祖の左右に安置します。
中段には前机を置き、打敷を敷いて、五具足(香炉を中央にして、一対のろうそく立て、金れんげ)を飾ります。次に過去帳を中央に置き、下段中央に線香立て、その両側に菓子や果物を乗せる高杯(たかつき)、そして左端に生花、右端にろうそく立てを飾ります。また中央の段に霊供善を供え、その左右に高杯を置き、菓子・果物を供える祭り方もあります。
仏壇手前には経机を置き、経本を置きます。そして右側に木鉦が置かれます。
木鉦は読経、唱題のときに打つもので、明治20年頃考案されたものである。
朝ご飯とお茶を供え、ろうそくに火をともし、線香を1本か3本(仏法僧の三宝に供養する)を立てて供えます。線香を立てる場合、図のような位置に立てます。また蓋のある香炉の場合には火のついた方を左に来るようにして寝かせます。
(1)正座、合掌
(2)開経偈
(3)妙法蓮華経方便品第二
(4)欲令衆
(5)妙法蓮華経如来寿量品第十六
(6)自我偈
(7)運想
(8)「南無妙法蓮華経」を繰り返し唱える
(9)宝塔偈
(10)一般回向文
(11)誓願
(12)「立正安国論」拝読
(13)「如説修行鈔」拝読
(14)「観心本尊抄」拝読
(15)「報恩抄」拝読
(16)合掌