1991.09
死と補償

  多くの被害を出した信楽高原鉄道の事故は、まだ記憶に新しい。その補償総額は30億と言われている。補償金は慰謝料プラス逸失利益(予想される将来の収入から、本人の消費する額を除いたもの)である。慰謝料については弁護士会と損保業界に、それぞれ算出基準があるが、一家の大黒柱の場合には1,800万円から2,400万円という。
  補償問題には、日航機事故や長崎屋火災補償(90年3月)などの大量死から、交通事故での損害賠償などさまざまである。今回のデス・ウオッチングでは死に伴う損害賠償について取り上げてみた。


●学校での死

水泳授業中に生徒が溺死した事故による補償

  昭和62年9月、神戸の中学校で、2年生の男子生徒が体育の授業で、プールで水泳中に溺死するという事件が起きた。このため、死亡した生徒の両親は、学校側に過失があるとして、国家賠償法1条、民法715条に基づき、市に対し合計4,600万円余りの損害賠償を請求した。

  申し立てによると、被告は、
(1)一度全力で泳がせた後、疲労回復させないまま、再度泳がせた
(2)プールには監視台がなく、監視者も置かなかった
(3)水泳中の事故に備えた救助体制を整えていなかった
(4)溺水に気づいてからの救助が遅れ、かつ気道確保、人口呼吸などの蘇生法を行なわなかったと主張した。

(損害)
  次に原告らが主張した損害額は、
(1)治療費に 36,680円
(2)事故がなければ得られた逸失利益が、32,493,527円
(3)慰謝料 2,000万円
(4)葬儀費用 1,376,000円。これらの合計が、5,253万円となる。そこから学校保健センターからの死亡見舞金等合計各11,024,450円の填補分を差し引くと4,048万円となった。弁護士費用は各自の損害賠償請求権の1割である。

(判決)
  原告らの賠償請求はいずれも棄却され、賠償金はゼロ。訴訟費用は原告の負担となった。その理由は屋外施設の状況、水泳及び死亡に至った状況について認定した結果、
(1)疲労によって溺れたとは認められない
(2)監視台を設置しないのは学校の過失ではない
(3)教師に緊急整備義務違反があるとは認められない
(4)救助や蘇生法が特に遅れたとは認められない
との結論による。

 

  また昭和50年7月、横浜の中学校でも、授業中水泳の飛び込み練習に失敗して、プールの底で頭を打ち、全身麻痺の障害を受けるという事故があった。
  この時には両親が市を相手取り、「教師の指導に過失があった」として、訴訟を起こした。それまでに市と日本学校安全会から、見舞金として1,900万円が支払われていたが、裁判の結果、横浜市に1億3千万円にのぼる支払が命じられた。

 

●暴力による死

パブ店員の暴力によって客が死亡した事件の補償

  東京都のパブで料理店経営者(51歳)は、飲食中に居合わせた女性客に絡み、店員から注意された。これに腹を立てた客は「表に出ろ」とその店員の肩を押すようにして出入口に向かった。店員が店の扉をあけたとき、客がその店員の肩を掴んだのに腹を立て、客の手首を掴んで勢いよく外に引っ張りだした。このため客は足を滑らせ、石柱に前額部をぶつけて頭蓋内損傷を負い、翌日死亡した。
  この事件で死亡した客の妻と2人の子は、店員と店の経営者に対して、遺族である妻に4,000万円、その2人の子にそれぞれ2,000万円を支払うよう求めたものである。

(損害)
(1)慰謝料 3,000万円。妻子を抱えた働き盛りの男が、たまたま飲酒したパブで従業員からゆえなく暴行を受けて死亡するという悲惨な最期をとげたことによる精神的苦痛に対するもの
(2)逸失利益 4,300万円。故人は当時料理店を経営していた51歳の健康な男子で、少なくとも16年は稼働でき、年間 536万円に相当する収入を得ることが出来た
(3)葬儀費用 100万円
(4)弁護士費用 600万円、
以上合計 8,000万円。

(抗弁)
  死亡者は事件当日、酩酊して居合わせた若い女性客に執拗に絡んだため、店員は女性客の求めに応じて男に注意を与えた。こうした注意に腹を立てた客は店員に対し「表に出ろ」といった。そこで店員が出入口をあけたとき、男は襟から肩の当たりを強く掴んだので、危険を感じとっさに男の手首をとって引っ張ったもので、この行為は正当防衛である。
  また男は酩酊して雨に濡れた歩道の鉄板に足を滑らせ、石柱に頭部を打ち付けたのであり、事故後救急病院で暴れて医師の適切な処置を受けなかった。従って損害の算定には過失相殺がなされるべきである。

(判決)
  被告は損害の合計額から、過失相殺の5割を差し引いた金額の支払を命ぜられた。なお事件当日、パブの出入口と歩道に設けられた鉄板の勾配が、雨で滑りやすくなっていることや、歩道上に石柱があったことなどの事情は、店員が付近の状況を知っているはずなので損害額を減らす理由にはならないとされた。

 

●犯罪による死

新宿バス放火事件の死亡者の損害補償

  昭和55年8月、新宿駅西口のバスターミナルで、異常男が乗客30人の乗る京王帝都バスに、火のついた新聞紙とバケツ1杯のガソリンをぶちまけ、て放火する事件が起きた。このため乗客のうち6人が死亡、14人が重軽傷を負った。犯罪によって殺された遺族への補償は、犯人が不明の場合はもちろん、たとえ犯人が逮捕されたとしても、本人に支払能力がない場合、たいがいは泣寝入りとなる。この事件でも例外ではなく、死者の遺族には何の補償も得ることがなかった。
  この事件がきっかけとなって、異常な事件に巻き込まれて死亡した人を救済する法律が、翌年の1月1日より施行されることになった。この法律は「犯罪被害者等給付金支給法」といい、施行後には最高920万円の補償額が国から支給されることになった。
  もっともこの事件の被害者には、国からの補償はなかった。新しい法律には、「犯罪被害とは、日本国内(での事件はもちろん)日本国外にある日本船舶、もしくは日本航空機において行なわれた人の生命、又は身体を害する罪に当たる行為による死亡又は重障害をいう」とある(第2条)。なおこの請求は都道府県の公安委員会あてに行なう。

 

強盗に殺された大学生に賠償判決

  昭和63年愛知県佐織町で、民家に押入った強盗に殺された大学生の両親が、犯人を相手取り、総額8,400万円の損害賠償を求めていた裁判で、犯人に請求額の全額を支払うように命じる判決が出た。しかし犯人は生活に困っての犯行だけに資力はゼロ。両親には「犯罪被害者等給付金」が数百万円支払われただけであった。


犯罪行為による死でも保険金が支払われた例

  生命保険の契約では、保険に入っている人が自らの犯罪行為によって死亡した場合には、その保険金は支払われないことになっている。
  事件は昭和61年11月3日の午後6時過ぎに起こった。男は強盗を目的に大阪のスーパーの2階の事務室に拳銃をもって押し入った。しかし中にいた店員らに騒がれ、格闘となったあげく、犯人の拳銃が暴発し弾が頭部にあたり犯人は即死した。
  この事件で死亡した犯人は生命保険に入っていたため、その死亡に保険金が支払われるかどうかが問題となった。

(判決)
  1審では保険会社が負け、これを不服として控訴したものである。控訴の理由として、犯罪を犯して死亡しても保険金が出れば、保険加入者はその後の憂いを考えることなく犯罪行為に走らせる結果となる。これは一般の公益に反するという点にあった。しかし判決では、この死亡の場合には保険金受取りを目的とした死亡ではなく、偶然の死亡であった。死亡保険が遺族の生活保障を目的としていることを考えると、この事件では強盗が未遂に終わり、逃走中に拳銃が暴発したものである。この暴発は強盗を行なう場合、予見できる死亡でないとして、生命保険会社からの控訴をしりぞける判決をした。そして保険会社には、死亡保険金3,500万円の支払義務が生じた。

 

●屋外での死

5歳の児童が道路上にあふれた増水により河川に転落死した補償

  昭和59年6月、夫婦に伴われてパチンコ店に来ていた児童が、一人で店内から市道に出た。当時その川は増水して道路に水が流れ込んでいたため、この児童は道路で遊んでいるうちに、川に転落した。そして下流で水死体で発見された。このため両親は、河川と市道の設置、管理に問題があるとして、滋賀県と近江八幡市を相手に損害賠償として1,817万円を請求した。

(判決)
  第1審の大津地裁はこの請求を棄却した。原告はこの判決に不服として控訴したが、1審判決を支持して控訴を棄却した。その理由は、この事故で道路にガードレールなどの転落防止施設が設置されていなかったことについて、その道路の環境、通行量、川の通常の水量などを検討して、ガードレールが設置されていなかったとしても、それは手落ちではない。
  また事故当時、パチンコ店の前付近の道路を進入禁止のバリケードと標識が設置されていた。この道路に夜間児童が一人で立ち入って、川に近づくことは通常予測できない事態として、管理設置に手落ちはないとするものであった。控訴は棄却され、控訴費用は控訴人の負担となった。
  この事故の15年前の昭和44年、東京北区で、わが子がどぶ川に落ちて死んだ責任は区にあるとして区当局を訴え、約700万円が支払われたことがあった。現場は隅田川の堤防から約50メートルにあった幅3m、深さ2.8mのどぶ川で、どぶ川に梁をかけ、その上に板で橋がかけられていた。ここは以前にも子供が落ちて死亡する事故が2件起きており、付近の住民も危ないから区に陳情を行っていた。しかし区は何ら対策を講じない、そんな矢先の事故であったため、両親の怒りは大きかった。東京地裁で請求通り支払を認める判決が出ると、全国から反響があり、同じようにどぶ川などで子供を亡くした人たちの連絡会が誕生した。


ゲレンデから駐車場に転落死亡したスキーヤーの補償

  昭和59年2月、公務員のTは山形県蔵王スキー場で滑降中、ゲレンデと駐車場との境付近にあった雪の段差から転落して脳挫傷を負い、翌月病院で死亡する事故が起きた。
  訴えによると、事故現場は滑降してきたスキーヤーが、ゲレンデの終わりと駐車場の判別がつきにくく、駐車場内に転落する危険があったのに、管理者は防御ネットなどの設置義務を怠ったとして損害賠償を請求したものである。

(損害)
  この事故で原告が受けた損害の内訳は次のとおりである。
(1)逸失利益 5,050万円
(2)治療費関係計 148万円。
   内訳
   ◇病院治療費 99万円
   ◇入院雑費(9日間) 9,000円
   ◇入院付き添い費(5名、8日) 148,000円
   ◇同交通費 10万円
   ◇護送費 23万円
(3)葬儀費用 90万円
(4)慰謝料計 1,510万円
(5)公務員共済からの損害填補計 150万円。
   内訳
   ◇治療費 99万円
   ◇入院付加金 3,000円
   ◇埋葬料 102,000円
   ◇死亡退職手当て 30万円
   ◇弔慰金(共済) 10万円
(6)弁護士費用 664万円。

差し引き合計 7,314万円

(判決)
  被告であるロープウェイ会社ならびに駐車場管理会社に、各2,500万円の支払が命じられた。

(損害額の検討)
  原告から提出された損害について、個々に検討が加えられたが、そこから興味ある点を拾い挙げてみた。

◇護送費は、原告らが治療費として護送費の支出をした証拠はない。遺体の護送費用とすると葬式費用のなかに入っているから重複する

◇葬式費用は、

  葬儀のために山形葬儀社に対し 232,100円、
  読経料として松陰寺に 金5,000円、
  火葬取り扱いに 5,000円、
  斎席場使用料として旅館に746,440円、
  葬儀写真代に 12,000円、
  戒名料と布施に観音寺に 95,000円、
  香典礼状印刷代 8,500円、
  ローソク線香代 6,000円、
  餅代 1,650円、
  赤飯・料理・食料品代 121,675円、
  生花代 1,860円、
  引出物代 756,820円、
  埋葬料 15,000円。

  合計 2,007,050円である。

  原告は以上の支出分の内金90万円を葬式費用等の損害として請求しているが、この金額は社会通念上相当な経費と認められた。

◇弁護士費用は80万円である。

 

●交通事故

駐車中の大型自動車に衝突死したオートバイ運転手の補償

  昭和62年6月、午後9時頃、国道1号線を川崎から横浜方面に向けて走行中のオートバイが、路上に駐車中の大型自動車に衝突、胸部打撲、内臓破裂等により死亡した。遺族は大型自動車の運転手に対し、通行量の多い駐車禁止の道路に何の表示もせず、漫然と駐車した過失があるとして、逸失利益、慰藉料等合計2,500万円の損害賠償を請求した。
  これに対し、被告は現場は交通量がそれほど多いとはいえないうえ、目につきやすい街路灯の下の明るい所を選び、かつカーブを避けて直線道路に駐車するなどの注意義務を尽くしたと反論した。またこの事故はオートバイの前方不注意によって発生したのだから、9割程度の過失相殺をすべきであると主張した。

(損害申し立て)
(1)処置料等 117,000円
(2)葬儀費用 150万円
(3)逸失利益 3,886万円
(4)慰謝料 1,800万円
(5)損害の填補 自賠責保険により 1,750万円を受領
(6)弁護士費用 234万円。

(判決)
  国道に夜間大型車を駐車すると後続車が追突することが予測される。そのため駐車を避けるか、駐車灯などの警告措置を取る義務があるのに、これを怠ったとして損害賠償責任を認めた。またオートバイには前方不注意の過失があったとして、6割の過失相殺をし、合計533万円の支払請求を認めた。

(損害額の検討)
(1)処置料等は事故の翌日、死体検安及び文書費として病院に1万円支払った証拠があるだけである。従って1万円
(2)葬儀費用は合計 163万円を支出したが、うち100万円を事故との関係による損害と認められる
(3)逸失利益 3,886万円
(4)慰謝料 1,600万円
(5)損害の填補 自賠責保険により 1,750万円を受領
(6)弁護士費用計 48万円。


踏切で、電車にはね飛ばされ死亡した自動車運転者の補償

  昭和62年12月朝、通勤のために自動車を運転してJR和歌山線の踏切を横断中のSは、進行してきた電車にはね飛ばされ、頭蓋骨骨折などにより死亡した。遺族は、踏切に列車の接近を知らせる警報機、遮断機がないのは、工作物の設置・保存上の欠陥として、合計5,313万円の損害賠償を請求した。

(判決)
  判決によると、踏切の南側は注意柵が設置されており、「一時停止」の標識も設置され、車両用のミラーもあった。踏切の見通しは良好などの理由により、原告の請求は棄却され、訴訟費用は原告の負担となった。

 

車にはねられ、その直後に別の車に轢かれて死亡した責任は

  午前1時頃、寿司店の経営者(42歳)が酒に酔っぱらって道に座っていたところ、貨物自動車にはねられ、次に乗用車に轢かれて死亡するという事故が起きた。このため遺族(妻ならびに子3名)は、事故の原因となった2人の運転手を相手取って損害賠償を請求した。保険会社に対しては、乗用車がかけていた自賠責保険の支払を求めた。

(判決)
  この事件では、最初にはねられたときに即死していたなら、後の乗用車は賠償責任を負う必要はないということであった。しかし貨物にはねられてから轢かれるまでに4秒ほどしか経過しておらず、その間に被害者が死亡したものとは認められないため、乗用車の賠償責任は認められた。しかし轢いた時点では瀕死の重症を負っていたため、逸失利益(生きていたら得られる金額)は期待できないとした。そのため死亡による損害の一部に対して、2人の連帯責任を認めたのである。
  また損害の填補については、遺族に支払われる自賠責保険は、まず貨物車が単独で賠償責任を負う部分について填補され、あとの自動車にかけられていた自賠責保険の責任部分が填補されるべきであるとされた。

(損害)
  判決では、被害者が道路に座っていたものの、運転者両名がそれぞれ飲酒していたことを考慮した結果、被告はそれぞれ賠償責任があるとされた。

  死亡者の逸失利益 3,382万円。
  慰謝料 2,050万円。
  葬儀費用 110万円。
  弁護士費用 55万円。
  合計 5,597万円。

ここから過失相殺により45%が減額され、自動車損害補償による2,500万円の填補分を差し引いた計1,810万円の支払が、2人の運転者と保険会社に命じられた。

 

●誤診による死亡

夜間の救急患者が誤診で死亡した補償について

  昭和55年10月29日午後10時30分頃、31歳の男性が自宅で突然苦痛を訴え、救急車で病院に運ばれた。担当医師は患者から肝臓疾患をわずらったことを聞き、肝臓疾患があるが緊急に処置しなければならない状態にないとし、経過をみるために入院させた。しかし入院後吐き気、倦怠感を訴え、翌朝10時5分に心筋梗塞で死亡した。
  このため死亡した患者の母親は病院を相手取り、初診時に心筋梗塞の疑いがあったのに、救急措置を取らないまま放置したのは、診療契約上の債務不履行にあたるとして損害賠償請求の訴えを起こしたものである。

(判決)
  1審の判決では死因は心筋梗塞であるが、心筋梗塞症状は見られなかったし、患者の既往歴から肝臓疾患と診断して入院させた医師に、注意義務違反はないとして請求を棄却した。遺族はこれを不服として控訴した結果、患者には肝臓疾患では説明しきれない症状があったから、心筋梗塞の可能性を検討し適切な処置を取っていたら救命できる可能性は高かったとして、2,913万余円の損害賠償義務を認めた。


腸重積症の幼児を風邪と誤診

  昭和46年9月、生後6ヶ月の幼児が高熱を発して吐き気を起こしたため、病院で診断を受けたところ、医師は風邪と診断して帰宅させた。帰宅後も症状が好転しないため、別の病院に診察してもらったところ、この病院でも風邪気味で腸が弱っていると診断して帰宅させた。翌日午後3時すぎ、幼児は腸重積症による循環障害を起こし心不全で死亡した。そこで両親は、この診察をした2人の医師にたいし 1,070万円の損害賠償を請求した。

(判決)
  裁判所は、両医師に過失があったとして721万円の支払を命じた。なお2審では患者側にも医師の指示を守らなかった過失があるとして2割の過失相殺をし、第3審も同様の判決が出た。


糖尿病患者が断食療法で死亡した人の補償

  糖尿病患者のTさんは入院治療後、自宅療養を続けていたが、退院後も医師の指導でインシュリン注射と服薬続けていた。Tさんは知人のすすめで福岡市の断食道場を訪ね、主宰者のIから、「ここでは西洋医学の薬を使わないで治すので、インシュリンや飲み薬は必要ない。17年間も何千人も治してきたから、絶対大丈夫」と聞かされた。そのため同日から入寮し、それまで続けていたインシュリン注射や服薬を止め、Iの指導する断食療法を受けた。しかし2日目の夜から容体が悪くなり、翌日午前11時頃救急病院で死亡した。病理解剖の結果、直接の原因は肺浮腫、肺出血及び無気肺であったが、その原因は断食中にインシュリン注射を止めたために高血糖昏睡を来たしたことによるものとされた。Tの遺族は契約不履行ないし不法行為損害賠償を請求した。

(裁判経過)
  1審では遺族らの請求を棄却、2審(差戻前)では不法行為責任を認めたが、事前に医師に相談せず、Iの言葉を信じてインシュリン注射を中止したTの過失割合を7割とした。本件は差戻後の2審の判決である。

(判決)
  IはTがインシュリン注射と飲み薬を常用を必要とする、かなり重い糖尿病患者と知りながら、注射は必要ないといい、断食療法をすすめた。
  死亡したTの過失は、インシュリン注射等を中止しても危険がないかどうか、断食道場による治療を受けても大丈夫かを事前に医師に相談しないで注射を止め、死亡事故を引き起こしたことである。従ってTと死亡したIの過失割合は70%対30%という判決となった。

 

Copyright (C) 1996 SEKISE, Inc.