1991.03
各宗派の葬儀

  今回のデスウォッチングは、日本の仏教各宗派の葬送儀礼を見ていきたい。各宗派ともその構造は大変によく似ており、また葬送儀礼はその宗派の教義のミニチュア版になっていて、大変に興味深いものがある。つまりその宗派の葬儀が理解できれば、その宗派の教義内容が理解できるのである。

  仏教葬儀の場合、一番中心になるのは死者と死者を悟りに導く宗派のご本尊である。しかし葬儀ではどうしても死者に焦点がいくので、儀式の構造が見えにくくなってしまう。そういった意味で今回は本尊を中心とした葬儀を見ていくことにする。
  仏教宗派の本をみると、その編集順位は大方、天台宗、真言宗、浄土宗、浄土真宗、禅宗(曹洞宗)、日蓮宗の順に取り上げられている。ここでも宗派が生まれた順に取り上げる。天台宗は806年(最澄39歳)、真言宗は823年(空海49歳)。それぞれ平安京遷都(794)のあとに誕生した。次に鎌倉時代にはいって、1175年に浄土宗が法然(42歳)によって開かれた。次に親鸞が浄土真宗を開いたが、『教行信証』を著したのは1225年頃(52歳)とされている。禅宗の一つの曹洞宗は道元が明から帰って来た1227年(27歳)から始まる。本山である永平寺が建てられたのはその16年後である。日蓮が開宗を宣言したのは1253年(31歳)で、この年道元が54歳で死亡。親鸞は80歳で更に10年生きる。法然、親鸞、道元、日蓮のいずれも天台宗の比叡山で修業をしている。
  日蓮正宗は日蓮の高弟日興(1246〜1333)を派祖とし、1911年(大正元年)日蓮正宗と公称する。なお臨済宗は1191年伝えられている。

 

●天台宗の葬儀

  天台宗は伝教大師最澄(767〜822)が宗祖で、その葬式には三種の儀式がある。『法華経』を読み、懺悔し、罪を滅し善を生かすもの。『阿弥陀経』を読み、極楽往生に導くもの。そして光明真言によって罪を滅するものである。何れの場合にも故人を仏の世界へ導く引導作法が行なわれる。


(1)『阿弥陀経』を中心とした葬送作法

  これは1. 剃度式 2. 誦経式 3. 引導式 4. 行列式 5. 三昧式の五つからなる。

〔剃度〕とは髪を剃り得度することで、出家した印に髪を剃り、僧に必要な戒律を受けることを意味する。髪を剃るのは世俗の虚飾を避け、また他の宗教と区別するためである。
〔誦経〕では、『阿弥陀経』を唱え、その功徳によって悟りに至ることを祈願する。
〔引導式〕とは死者に法語を与えて、涅槃の世界に行くことを教え諭すことである。
〔行列式〕は死者が西方の極楽浄土に向いて進んで行く象徴である。
最後の〔三昧〕とは心が安定した境地に入ることをいうが、法華経を唱えて三昧になることを言う。

  儀式の構造を分離、移行、合体によって説明する学者がいるが、その図式を使うと剃度式は、世俗からの分離と言うことになる。2の誦経から4の行列までは世俗から西方浄土への移行過程となり、三昧式は法華経3昧による聖なる世界との合体である。さてこのプロセスを細かく見ていくと次のようになる。

1. 剃度式では髪を剃る仕草をし、この時「辞親偈」(じしんげ=親元を捨てる偈)を唱える。「流転3界中、恩愛不能断、棄恩入無為、真実報恩者」(欲界、色界、無色界に生まれた者は、愛する者との別れの情は断ちがたい。真理の道に入り、真の恩に報いる)。次に懺悔をし三帰戒を授ける。三帰戒とは仏・法・僧の三つに帰依することである。そして「衆生仏戒を受くれば、諸仏の位に入る。位は大覚と同じゅうし、これ諸仏の子なり」と唱える。

2. 誦経(ずきょう)式は、始めに仏・法・僧の三宝に礼をし、表白文を唱える、
  「…爰に新円寂(戒名)生縁既に尽きて両眼忽に閉じ一息長くて絶て露命頓零つ。悲哉生者必滅之掟。痛哉会者定離の理。如かず。執持名号之勤めて致し来迎引接の誓いを憑まんには。…」
  (ここに〔戒名〕生の縁が尽き、露の命はにわかに落ちた。悲しいかな生者必滅の掟。痛ましいかな合う者は常に別れる理屈。南無阿弥陀仏の名号を念じ、来迎の誓いを信じ、速やかにこの土地を離れて、悟りに至る。)
  このあと死者のために『無常偈』と『阿弥陀経』を唱え、回向を行なう。回向は、回し向ける、つまり方向を逆にすると書き、法事を営んだ功徳を一切衆生に振り向けることをいう。ここでは、「先に修めた功徳を(戒名)霊位に回向す。」とあるように、回向は死者に向けられる。また最後には「この功徳が一切衆生の悟りのために平等に向けられ、安楽国に往生しますように」と結ぶ。

3. 次に死者をあの世に導く引導式が行なわれる。ここでは丸く一円相を書いて次の下炬文が唱えられる。
  「爰に新円寂(戒名)無常の風至って閉目黙然たり。定業の時来って煖息断絶す。嗚呼。、両眼朝に閉れば閻王累劫之罪業を問い、露体夕に消ゆれば、孤魂無間の苦悩に泣く。然りと雖も安養の化主は本願広くして四重五逆の類を捨て玉わず。…観音勢至は手を垂れて導き五々の聖衆は楽を奏して迎え玉わん。願う所は幽儀疾く九品の蓮台に登り、速やかに心月の慧光を輝かさんことを。…南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
  (ここに(戒名)無常の風が吹き、目を閉ざして沈黙する。定めの業の時によって暖かい息が途絶えた。両眼閉じた今閻魔王は数々の罪業を問い、はかない命が夕べに消えれば、孤独の魂は絶え間のない苦悩に泣く。しかしながら極楽浄土の主は衆生を救う願いが広く、どんな罪人も見捨てることはない。慈悲深く、一度でも念仏を唱えた者は見捨てない。…観音と勢至菩薩は手をさげて導き、仏弟子は音楽を奏してお迎えに来る。死者の願いは早く蓮の台に登り、速やかに心の智恵の光を輝かさんことを。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」。こうして死者は彼岸へと導かれる。


(2)光明供葬送作法

  光明供とは光明真言を念誦(ねんじゅ)して大日如来を供養し、大日如来の慈悲の光明が衆生の頂に注がれるように願うものである。光明真言を臨終作法に用いた例は古く、『往生要集』を著した源信(982〜1017)は、念仏によって極楽往生を果たすという25人からなる結社を組織して、死を間近にひかえた結社員を建物に収容し、皆で集まって念仏を唱えた。また死亡したあとも、光明真言で加持した土を遺体にかけ地獄に行かないように働きかけたのである。

 

●真言宗の葬儀

  真言宗は空海(774〜835)が開いた真言密教の教えで、この身のまま仏になる即身成仏を目指している。宇宙の生命である大日如来に包まれている、弥勒菩薩の浄土である都率(とそつ)天に死者を送ることである。奥の院で入定した空海は、弥勒が地上に降りてくる時には力を合わせて人々を救済するといわれている。
  ここでは高野山真言宗の儀礼を取り上げる。まず遺体を納棺してから、棺の前で授戒が行なわれる。真言宗の葬儀の特徴は、灌頂(かんじょう)の儀式にあるといわれている。灌頂は頭に水をそそぎかけることで、密教では仏の位にのぼるための重要な作法である。如来の五つの智恵を象徴する水を、弟子の頭に注ぐことによって仏の位を継承することを意味する。葬儀の場合にはこの結縁灌頂をせず、代わりに煩悩を破り如来の五智をあらわす五鈷杵で頭に触れる。

〔次第〕
1. 塗香
2. 三密観
3. 護心法心
4. 加持香水
5. 三礼
6. 表白
7. 神分
8. 仏名声明
9. 教化声明
10. 取剃刀唱
11. 授三帰三竟
12. 授五戒
13. 授法名
14. 授臨終大事
15. 三尊来迎印
16. 六地蔵総印
17. 不動灌頂印
18. 不動六道印
19. 弥勒三種印
20. 成仏印
21. 理趣経印
22. 讃

  以上。

  式の構成はまず式場の清めから始まる。次に仏様を招いて接待し、そして仏様の力を賛え、お願いするというプロセスを取る。まず体に香を着けて清め、〔三密観〕で業の原因である身体・口・意識の三つをイメージで清める。加持香水は香水で式場を清め仏菩薩をお迎えする。
  〔三礼〕は仏法僧に帰依し、〔表白〕では仏を賛え、これから行なう儀式の成就を祈る。お願いする内容は、「今日の精霊南浮此土の往因既に尽きて、都卒浄土の託生時至れり。よって今真言加持の教風に任せて葬送呪願の儀則を調え、三密加持の法水を洒で、新たに聖霊得脱の引摂を祈る。」(今日、精霊は南にある国土での因縁も尽きて、浄土に生を託す時となった。よって今真言加持の教えに任せて、葬送の呪願の儀則を調え、三密加持の法水をそそいで、あらたに聖霊が苦しみの世界から開放されて都率浄土に受け入れられることを祈る)。
  神分(じんぶん)とは神々の身分、力ということで、諸々の仏を勧請して法楽を捧げること。「そもそも亡き魂の葬送の庭は、極楽へ往生する場であるから、閻魔法王及び五道の冥土の官吏等も降臨してきている。従ってこれら冥土の官吏たち、ならびに業を離れ道を得るために般若心経を唱え、そのあと天上世界に往生するためにそこの主宰者である如来、菩薩の名前を唱えて降臨を感謝し、死者の成仏を願う」。
  〔仏名声明〕仏名とは仏名懺悔のことで、「南無、帰命頂礼、無常呪願、聖霊引導、往生極楽」と唱え懺悔する。〔教化〕とは道場に仏菩薩を迎え、法楽を捧げるもの。次の〔取剃刀唱〕は死者を剃髪すること。この剃髪は仏や菩薩の前で行なわれる。〔授三帰三竟〕は仏法僧に帰依し、〔授五戒〕では殺し、盗み、姦淫、妄語、飲酒の5つをしないことを誓う。次に死者に法名を授け、〔授臨終大事〕で宇宙万物がもとから存在していたことをあらわす「阿」字が授けられる。〔三尊来迎印〕で三尊を来迎し、〔六地蔵総印、不動灌頂印、不動六道印、弥勒三種印〕で地獄の苦しみを抜き、〔成仏印〕で真言密教の目指す即身成仏を象徴化し、〔理趣経印〕で「理趣経」を読誦し、〔讃〕で仏を賛えて棺前作法を終了する。これらを通して行なうと50分かかるため、7〜9、15〜22を省略して40分に省略したり、さらに短く省略することもある。いずれにしてもこの儀式で大切なことは、お招きした仏や菩薩に五大を捧げて丁重にもてなすことである。

 

●浄土宗

  法然上人は1212年、頭北面西して「光明遍照十方世界、念仏衆生摂取不捨」の経を唱えて80で死去した。浄土宗の葬儀とは、法要で行なわれる序分、正宗分、流通分に授戒と引導がつけ加わったもの。「序文」では仏前で香を焚いて仏を供養し、次いで仏法僧の三宝に敬礼する。そして式場に仏菩薩の来臨を願い、華を散らして仏を供養する。続いて仏の前に一切の罪を懺悔し、仏の加護を祈るまでが序分にあたる。次に「正宗分」は死者を仏の弟子にする「授戒会」を行なう。次いで導師は高座に登り経を唱え、その功徳を仏弟子になった死者に回向するのである。次の「流通分」は、法要を終えるにあたり、仏の加護によって法要を修することができたことに感謝し、仏をお見送りするのである。
  「枕経」では来迎仏をお祭りし、弥陀世尊、釈迦如来、十方如来の三尊をお迎えする。次に懺悔文を唱える。
  剃度作法では、「報恩偈」を三度唱えながら剃刀の形をしたものを死者の頭にあてる。次に三帰三竟と戒名を授ける。次に開経偈そして誦経へ続く。多くは『無量寿経』のなかの「四誓偈」か、『観無量寿経』のなかの「真身観文」が読まれる。〔発願文〕では「願わくは弟子等命終の時に臨んで、心転倒せず、心錯乱せず、心失念せず心身にもろもろの苦痛なく、快楽にして禅定に入るがごとく、聖衆眼前したまい、仏の本願に乗じて阿弥陀仏国に上品往生したまえ。彼の国に至ってのち、六神道力を得て十方界に入り苦の衆生を救摂せん。」などと述べる。
  〔納棺式〕では、「引接(いんじょう)安養極楽界、当証菩提正覚位」と3回読む。通夜の差定(次第)は特に定まっていないが、念仏を主とする。
  (葬儀)1. 鎖龕 2. 下炬 3. 山頭念誦 4. 総回向
  葬儀は入堂、三宝礼、懺悔偈に続いて鎖龕(さがん)が行なわれる。鎖龕は棺を閉ざす儀式で、その作法は棺に進み、焼香して斜め左に三歩退き、中啓(扇子)で一円相を描き、次の文を唱える。
  「華は開く稀有の色、波は掲ぐ実相の音。作麼生か起龕の一句。閉塞諸悪道、通達善趣門」 (華は珍しい色で開き、波は実相の音。なぜか起龕の一句。諸悪道を閉ざし、善門を通す)。続いて棺を起こして葬場へ行くための文が唱えられる。
  下炬(あこ)は引導のことで、導師は棺の前に進み焼香してから、2本の松明を取り、そのうち1本を捨てる。これは汚れた地上を離れるという意味である。次に1本の松明で一円をかいて下炬の偈を述べる。偈の最後には餞別の辞を述べて、「南無阿弥陀仏」の念仏を十回唱える。
  最後の回向のあとにも十念を唱え、そして来臨した仏をもとの天上に送る偈が唱えられる。この儀式では死者を西方浄土に送り届けるのが主眼となっている。

 

●浄土真宗

  浄土真宗は室町時代に蓮如上人によって大きく発展した。上人は1499年の入滅に先立って、葬儀作法を細かく遺言され、その内容がそれ以後の葬儀の作法の基礎になっている。浄土真宗は往生をとげた死者に対し、生前の徳を偲び、心から礼を尽くすのである。従って死者の解脱をはかる引導作法や追善回向の作法は存在しないのが建前である。
  枕経はまず死者に法名を授け、それから「帰命無量寿如来」で始まる『正信偈』などを唱える。『正信偈』は『教行信証』の行巻にある7部120句からなる偈文である。
(葬儀)1. 先請阿弥陀 2. 三匝鈴 3. 路念仏 4. 表白 5. 、正信偈 6、回向
  葬儀が始まると、総礼して阿弥陀の来臨を願い、勧衆偈、念仏、回向、総礼と続く。次に三匝(そう)の鈴を小から大と打ち出し、路地念仏(南無阿弥陀仏)を詠唱する。「表白」の内容等は次のように定められている。「思うに無常の嵐は時を選ばす処を定めず、老少のへだてあることなし。しかるに恩愛の絆、いよいよ断ちがたく別離の情、また去りがたし。阿弥陀如来はかかる煩悩熾盛(しじょう)の我等を憐れみたまい、超世の悲願を立てたもう。まことにこの本願の力によらざればいかでか出離生死の道あらんや…」こうして「表白」が終わると、『正信偈』、「南無阿弥陀仏」の念仏十遍、和讃、回向というように進められる。このように浄土真宗は他の宗派と違う点は、戒名がないこと。引導がないことが上げられる。

 

●曹洞宗

  禅宗の一宗派である曹洞宗は、道元(1200〜1253)が宗祖である。根本宗典は道元の『正法眼蔵』であるが、明治になって『正法眼蔵』を在家用にまとめた『修証義』が編集された。現行の在家葬法は宗の時代にまとめられた『禅苑清規(ぜんねんしんぎ)』(1103)が鎌倉時代に日本に伝わり影響をあたえた。日本では中国のように葬儀は派手でなかったし、墓も公卿でなければ認められなかった。しかし布覆、白幕、位牌、脚絆、数珠、霊膳、六文銭などは中国の風習を取り入れたものである。また禅宗の葬儀は楽器を鳴らして賑やかなのが特徴である。

〔次第〕 枕経、剃髪、授戒。

(葬儀)
1. 入龕諷経
2. 大夜念誦
3. 挙龕念誦
4. 引導法語
5. 山頭念誦
6. 仏事
7. 安位諷経。

枕経は『遺教経(ゆいきょうきょう)』または『舎利礼文(しゃりらいもん)』を三返読んで回向する。『遺教経』は釈尊が入滅にさいして弟子たちに最後の説法をした時の情景を説いており、禅宗では重んじられている。『舎利礼文』は釈迦の遺骨を礼拝するお経で、火葬場でも読まれる。そこに書かれているのは、
  「一心頂礼、万徳円満、釈迦如来、真身舎利、本地法身、法界塔婆、我等礼敬、以我現身、入我我入、仏加持故、我證菩提、以仏神力、利益衆生、発菩提心、修菩薩行…」
  (一心に頂礼したてまつる。釈迦如来の舎利は元々は法身、法界の塔婆である。我身をもって入我我入し、仏の加持の故に我菩提を証す。願わくば神仏の力をもって衆生を利益し、菩提心を発し、菩薩行を修めよ)という内容である。次に回向を唱える。その中身は「香、花、燈燭、水を供え、舎利礼文を諷誦す、集むるところの功徳は、新亡精霊(新しい死者の霊)に回向す。乞い願うところは四大縁謝の次いで報地(死者の仏世界)を荘厳せんことを。」

〔剃髪〕では導師は棺の前で香をたき、合掌して偈を唱える。
「剃除鬚髪、当願衆生、永離煩悩、究竟寂滅」 (まさに願わくは、衆生とともに煩悩を離れて、煩悩寂滅を完成せんことを」。

〔授戒〕は懺悔文を唱え、次に授三帰戒を行なう。このあと導師は用意した血脈を香に薫じて「衆生仏戒を受くれば、諸仏の位に入る。位は大覚と同じゅうし、これ諸仏の子なり」と三唱する。以上、剃髪・授戒して死者を仏教者にしてから、狭義の葬儀が始まる。

1. 入龕諷経(にゅうがんふぎん)は棺に納める儀式で、実際はすでに納棺されている。まず陀羅尼を唱し、次に回向文を唱える、「上来諷経する功徳は、(戒名)に回向す。願わくは、入棺の次いで報地(浄土)を荘厳せんことを。」

2. 大夜念誦。かって大夜は前日の夜に行なわれたが、今は入龕諷経に続いてよむ。その意味は、「(戒名)あって、生縁すでに尽きて大命にわかに落つ。諸行の無常なることを了って寂滅を以て楽となす。うやうやしく現前の清衆を請して、つつしんで諸聖の鴻名(偉大な名)を誦す。集むる所の鴻福は覺路を荘厳す。」といって十の仏の名前を読み上げ、次に『舎利礼文』を読み上げる。

3. 挙龕念誦(こがんねんじゅ)は、棺を起こして葬場に赴く前の儀礼であるが、最後の山頭念誦まで自宅などの葬儀会場で通して行なってしまう。

4. 引導法語では、導師が法炬(たいまつ)を右回り、左回りと円相を描く。次に引導法語を唱える。一字一喝で一挙に仏世界に入らせるという。

5. 山頭念誦の山頭とはもともと土葬場のことである。導師は死者に「すでに縁に従って寂滅する。すなわち法によって荼毘す。百年虚幻の身を焚いて一路涅槃の徑に入らしむ。仰いで清衆を憑んで覚霊(霊が覚る)を資助して念ず」。次に仏の名を唱えて回向する。禅宗は浄土を立てないが、中国から入ってきた儀式の影響を受け、涅槃とか浄土の言葉も引導の言葉の中に使われている。

 

●日蓮宗

  日蓮宗の葬儀は『法華経』を信じ、「南無妙法蓮華経」の題目を受持する者は、必ず霊山浄土に行詣することができる」という日蓮聖人の教えをよりどころにして営まれている。
  枕経は勧請に始まって、読経、偈を唱え、回向をする。
  納棺に先立っては「辞親偈」を唱えて剃髪、授戒するが、これは禅宗の影響である。

(葬儀)
1. 道場偈
2. 勧請
3. 開経偈
4. 茶湯・霊膳
5. 引導文
6. 唱題
7. 回向
8. 四誓・三帰
9. 退堂。

  葬儀は導師入場の後、道場偈ではじまる。「我此道場如帝珠、十方三宝影現(ようげん)中、我身影現三宝前、頭面接足帰命礼」(この道場は神々の珠のようで、十方が仏法僧に守られ仏が衆生救済のために姿を現し始めた。仏の御足の前に頭を着けて礼拝する)。三宝礼の後に〔勧請〕である。ここで招かれる大マンダラは、釈迦、菩薩、日蓮大菩薩などである。読経は『法華経二八品』の中から「方便品第二」「如来寿量品第十六」などを読誦する。
  次に引導文である。引導文例をみると最初に仏、菩薩の名を上げ、彼らに次のように語りかける。「まさに今この道場に棺廓を安置し、葬送の儀を修する所の一霊位あり。これは受けがたき人身を受け、あいがたき妙法にあい奉る善男子なり。然りと雖も…霊位近来病魔のおかすところとなり、医薬看護、その精を尽くすと雖も、…去る○日、逝去し了ぬ。ああ、悲しい哉。いま霊也が生前の行功を考え、法号を授与して○○と号す。仰ぎ願わくば上来勧請の仏陀諸尊、大慈大悲の御手を垂れ給うて霊也をして確かに寂光の宝土に摂取し引入したまえとしかいう。(ここで導師は松明を取り、三度円相を描く)霊也、今汝に悟道の要句を示さん。謹んで諦聴、よくこれを思念せよ。それ諸法実相の覚の前には覺体にあらざるものなし。これを捨てて何物をか求んや。常在霊山の床の上は寂光にあらざる所なし。これを去りていずこにか行かんや。然れば即ち本覚の真都は即ち葬送の場に現われ、遮那覚王は直ちにも誦経の蓆に現ぜん…」等と述べる。そのあと「南無妙法蓮華経」の題目を十から百遍唱える。日蓮宗では、このように仏陀が法華経をといたという霊山浄土に往生することを目的としている。

 

●日蓮正宗

  日蓮正宗の葬儀は大石寺九世法主の日有上人によって確立した。日蓮正宗の葬儀は故人の即身成仏を願い、御本尊の威光に照らされて霊山浄土に向かえるように祈念する。
(葬儀式)
1. 僧侶出仕
2. 題目三唱
3. 読経(方便品、寿量品)

 

資料

藤井正雄編『仏教儀礼辞典』東京堂出版
藤井正雄監修『葬儀大事典』鎌倉新書
中村元著『仏教語大辞典』他

 

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