1989.01
死のユーモア

  「死」はいつの時代でも、避けて通ることのできない重大な関心事でした。また「死」はその内容の重さゆえに宗教的、あるいは倫理的に真剣に問われてきました。しかしその一方で「死」のなかに笑いを持込み、その暗さ、深刻さを吹き飛ばす大衆のパイタリティも見逃すことが出来ません。今回のデスウオッテング」では、江戸時代に栄えた「落語」「小話」、そして中国の「小話」のなかに「死のユーモア」を見てみたいと思います。


江戸落語

大山詣り

江戸の衆、18人が大山詣りに行った。 「道中で酒を飲んで暴れたりした者は坊主にしてしまう」 という約束が決められた。約束どおり山の方は大変おとなしくすみましたが、帰りの神奈川宿で熊公が酔っぱらって大暴れ。そこで熊公が2階でいびきをかいて寝ている間に、皆して坊主にしてしまった。翌朝、一行はまだ眠っている熊を置いて出発した。目をさました熊は気がつくと自分が丸坊主になっている。驚いた彼は、他の者たちよりも先に籠に乗って江戸に帰り着いた。そして一同のおかみさんを集めて言った。
「われわれ一行は帰りに船に乗ったが、ひっくり帰り、全員溺れて死んだ。自分だけ助かったので、皆の菩堤を弔うために坊主になった」
と自分の坊主頭を皆に見せた。
おかみさんたちは大いに鷲き悲しんで、同じ様に全員が坊主になった。そこに一行が帰ってきて、皆怒り出す。すると一人の老人が、
「こんなめでたいことはない」
といった。
「なにがめでてえんだ」
「お山は晴天で、うちに帰えりやみんな、お毛が(怪我)なくておめでたい」

 

ラクダ

「ラクダ」というあだなの男の所に、兄弟分が訪ねてくると、ラクダは、昨夜食べたふぐにあたって死んでいた。そこへ質屋が通りかかったので、彼は弔いの費用を作るために、屑屋を呼んで家にあるものを買えという。屑屋は買うものがないので「心ばかり」といっていくらか差し出す。
続いて月番のところに言って、香典を集めてこいといわれ、やむなく月番のところに行く。月番は、
「いやなラクダが死んだから、赤飯を炊くと思って香典を出してくれと頼んでみよう」
という。次に、
「大家のところに行き、お通夜の真似くらいしてやりたいから、酒と煮しめを持ってくるように言え。くれなかったらラクダの死骸をお届けして、死人にカンカン踊りを踊らせると言え」
と言いつけられる。屑屋は仕方なく大家に伝えると、大家は家貸も入れない者に、酒や煮しめが出せるかと言って断わる。そこでラクダの兄弟分は、屑星に死骸を背負わせて大家の家に乗り込み、いやがる屑屋にカンカン踊りを歌わせる。びっくりした大家は酒と肴を約束する。香典、酒が届いたのでラクダの兄弟分は、屑屋に酒を飲ませる。酒がまわった屑屋は、剃刀でラクダの髪を剃り、樽に死骸を納めて焼場までかついで行く。途中で転んだとき、樽の底が抜けたのも知らず焼場に着いて気づき、拾いに戻る。ちょうどそのあたりで酔っ払って寝ていた坊主を詰め込んでくる。坊主は目を覚まし、
「ここは一体どこだ」
「火屋だ」
「ああ冷酒(ひや)でもいいからもう一杯」

 

お見立て

おいらんの喜瀬川の所によく通った田舎の金持ちの杢兵衛が久し振りにやって来た。しかし喜瀬川は、若い衆の喜助に、
「あいつは虫が好かないから病気だといって断わってくれ」
という。杢兵衛は、
「わしが長く顔を見せなかったから病気になったんだろう。わしの顔を見れば治るだろうから案内しろ」
というので、喜助がその旨を伝えると、喜瀬川は 「死んでしまった」と言えという。
鷲き悲しんだ杢兵衛は、喜助に墓へ案内しろという。やむなく喜助は、杢兵衛を連れて山谷の寺に行く。適当な寺に入り、何回も間違った墓に案内する。そこで杢兵衛は怒り、
「どれが本当の喜瀬川の墓だ」
「ずらり並んでおりますので、どうぞよろしいのをお見立て願います」

 

3年目?

大恋愛のすえ結婚したが、亭主の熱心ある看護の甲斐もなく女房は死んでしまった。死ぬ前に亭主が、「もし私が後妻を持つようなことがあったら、婚礼の晩に幽霊になって出ておいて。そうすれば、どうしても私は独身で暮らさなきやならなくなる」と約束する。泣く泣く野辺の送りをすませ、中陰もすみ、百ケ日たたないうちに、親戚のものから再婚をすすめられる。はじめは断わっていたが、とうとう後妻をむかえることになる。婚礼の晩に幽霊が出るはずだったが、ついに出なかった。

そのうちに子供も生れ、三局忌の法事をつとめることになった。その晩、八つの鐘がなる頃先妻が幽霊になってあらわれた。黒髪をおどろに乱し、恨めしそうに枕元に座って恨みごとを言う。
「なぜもっと早く出ない」
「私が死んだとき、ご親戚で坊さんにしたでしょう」
「そりや、親戚中集まって、一剃刀ずつ当てて、お前を棺に納めた」
「坊さんでは愛想をつかされるから、毛の伸びるまで待ってました」

 

反魂香(はんごうこう)

同じ長屋に住む浪人が毎晩カンカンと鉦をたたく。熊さんはうるさくて寝られない。文句を言って行くと、
「拙者は鳥取の藩士で島田重三郎と申すもの。先頃仙台侯に三股川でお手打になった吉原の高尾大夫と二世の契りを交わした者でござる。今、高尾の菩堤のために、鉦を叩き南無阿弥陀仏と回向をいたしておる次第。鉦を叩き、高尾と取り交わした反魂香を火中にくべると、煙のなかからあらわれる」
という。熊さんが、やってみろというので、重三郎が実演する。すると全盛時代の高尾大夫があらわれる。
「お前は島田、重三さん…取り交わせし反魂香…」

熊さんは心から感心する。そして自分も3年前に女房と死に別れ、やもめ暮らしをしているので、どうかその反魂香を少しほしいと頼んだが、重三郎は断わった。やむなく熊さんは薬屋へ香を買いに行ったが、香の名前を忘れた。間違えて反魂丹をくべたが、なかなか女房のお梅が出てこない。そこで火鉢へごっそりとくべて、煙にむせていると戸をたたいて何か言う女の声がする。
「そちや女房のお梅じゃないか」
「あたしや隣のお竹だよ。きな臭いが火事じやないかい」

 

片棒

赤西屋けち兵衛は一代で金を儲け、もう先が見えてきたので、3人の息子のうち誰に財産を譲ろうかと考えた。そこで、「わしが死んだらどんな葬式にしてくれるか」
と3人に尋ねた。すると長男は、
「お通夜を二晩行い、仮葬、本葬と豪華な葬式をしたい」
という。次男は、
「葬式の当日に未曾有の儀式をしたい」
という。

けち兵衛は二人の意見にあきれかえり、三男に聞く。三男は兄二人と違い、このうえなく質素にやりたいという。
「会葬者に菓子などを出すのは無駄だから、葬式は発表した時間より2時間前に出してしまう。棺桶も葬儀屋に頼むとお金がかかるし、新しいのを焼いてしまうのももったいないから、物置にある漬物の樽を使おうと思う。人夫を頼むとお金がかかるから、片棒は私がかついで参りますが、あとの片棒に困ってるのです」
というと、
「なに、心配しなさんな、おれが出てかつぐ」

 

位牌屋

ずいぶんとけちな人物がいたものである。番頭が、
「旦那さま、まことにおめでとうございます」
と子供さんの誕生を祝うと、子供ができると金がかかるからめでたくないという。八百屋が菜を売りに来ると、むしろに菜を全部あけさして、からかったあげく買わない。怒った八百屋が行ってしまたあとで、むしろにこばれている菜を拾う。次に芋屋が来ると、
「いい芋だ。むかし琉球人が薩摩さまに献上した芋はこういうものだろうなあ、形がいい、これをまけとけ」
などと言って芋をたくさん取ってしまう。

ある日定吉に
「今手が空いているから、仏師屋に行って、注文してある位牌を取ってこい」
という。そこで定吉は仏師屋に行き、且那の会話をまねて言う。
「いい位牌だ、むかし琉球人が薩摩さまに献上したという位牌はこういうのだろうなあ、一つまけときなさい」
といって、出来損ないの小さな子供の位牌を余分にもらって帰ってくる。
「馬鹿、何だ、もらうにこと欠いて、子供の位牌なんぞなんにするんだ」
「ゆうべ生れた赤ちやんのになさいまし」

 

死ぬなら今

 あるけちな金持が息子を呼んで、
「私は一代でこの身代をこしらえたが、ずいぶん人様に迷惑をかけたしひどいこともした。多分地獄に行くことになるので、私が死んだら頭陀袋に小判を3百両入れてもらいたい。地獄の沙汰も金次第というから、お金の威光で極楽へ行けるかもしれない」
といい、息子の返事を聞いてそのまま死んでしまった。親の遺言通り3百両入れようとすると、親戚の者が、
「天下のご通用金を土葬にしてしまうのはもったいない」
といい、芝居に使う小道具を扱う店に行って小判を3百両分買ってきて、これを頭陀袋に入れた。それとも知らない且那さまはあの世に行くと、まず閻魔の庁に呼び出された。罪業の数々が鏡に映る。当然、地獄に行かされそうになる。そこで小判を百両だけ閻魔の懐に入れた。閻魔はそれで極楽にまわそうとしたが、周囲の牛頭馬頭や冥官たちがおさまらないので、そちらにも小判をまきちらし、うまく極楽に行ってしまった。地獄の閻魔大王以下みな大金をつかんだので遊びに行ってしまう。

そのうちにこの小判が極楽にまわってきて、偽物であることがわかる。そこで閻魔大王以下地獄の一同は、残らず牢屋に入れられてしまった。地獄には誰もいないので…死ぬなら今。

 


江戸小話

無常は碁の生き死に

 ある所に碁の好きな友二人、昼夜を打ち続けているうちに、両人ともやつれ果て、とうとう冥土に旅立ってしまった。閻魔王が現われて、
「お前ら裟婆にても後世のいとなみもせず、朝暮碁に熱中した罪、五逆にもまさっておる。地獄行きに価する」
といえば一人が答えて、
「私は碁にて生死の無常を観じました」
「それは何と観じた」
「電光朝露石の火と観じました」
という。さてもう一人は、
「私は世の中を『手見せ禁』(碁用語)と観じました」
といえば、閻魔王、
「これ罪人至極なり。沙婆の業にまかせて、八大地獄の石積めにせよ」
といい、まず、一人を召し出し、
「汝ばかりにも無常を観じたれば極楽へつかわす」
といえば、かの者答えて、
「願わくは一つ地獄にまいりたい」
「それはどうしたわけだ」
「沙婆から勝負がつきませんので、もう一番打ちたい」

 

涙にぬるむ酒の燗

左衛門という男、浮世を酒に暮して楽しんでいたが、ついに病気になってしまった。末期にのぞんで息子に遺言して言う。
「わしがこの病いで死ぬことは一生の本望なり。しかれば酒桶を棺にし、酒の粕でよくよくつめ、花水には酒を手向けてくれ。またかねて読んだ辞世の句があるが、そのように葬ってくれ」
という。

われ死なば酒屋の蔵の桶の下
 破れてしずくの漏りやせんもし

これを最後の言葉として死んだ。それから七七目の追善を営み、人々を集め、故人の好物なり酒を呑んでいると、にわかに涙ぐみはじめた。人々これをみて、悲しみはもっともなれど、故人もよいお歳であったと慰める。息子それに答えて、
「おやじ末期の遺言に『そちが酒を飲むときはわれに会うと思え。われの魂は酒じゃ』といわれた。ご存知のとおりおやじははっきりした人であったが、どうしたこと只今飲んだおやじの燗が、どんなふうになったかと考えると、あの世のことが思いに上がって悲しゅうござる」

 

葬礼を奉行と見る

葬礼の来るのを見て、番の者どもは夜回りの奉行衆と思い、下にいてお辞儀をすれば、葬礼の共、さてもそそっかしい者だなといって笑う。するとその番の者、腹を立てて言うには、
「やい、そこな葬礼。どこへ持っていく」
と咎めれば、
「これは火屋へ焼きに行きます」
と答える。重ねて番の者、
「火葬ならば、火の用心をよくせい」

 

残り多い妻の別れ

ある老妻に先立たれて独りさみしく暮していますと、友人から気分転換にと酒が送られてきた。幸い心安い人が居合わせたので、ではといって酒樽の栓を開けたが、なかなか出てこない。一人が、
「風穴がないからじゃ。樽のうえに錐で穴をあけられよ」
と言い、穴をあけてみると、どくどくと出た。時に亭主、樽に抱きついてほろほろと涙を流す。他の人、どうしたことと驚いていると、亭主涙を押えて、
「さても心残りでござる。御存じのとおり、女房のやつ、産後に小便が通しなくて死にました。このような療法が前もってわかっておれば、女房の頭にも錐もみし、うまく小便が通じたことでしょう」

 

病論はいいがち

さる所に出来庵という文盲で才能のある医者がいた。変わった名字であるためその訳を尋ねると、近所のあだなであるという。この医者、どんな病気をみても痰の治療ばかりするので、ある人出来庵に尋ねて、
「あなたの治療はいつも痰の薬ばかりつかうが、それでよいものか」
「どんな病気にしても人間は疾で死ぬものという。」
「しからば、浮気者が大酒を飲んで死ぬのも痰か」
「いかにもひょうたんという痰なり」
「あるいは盗人に襲われて死ぬのも痰か」
「それは大胆という痰なり」
「では川に身を投げ、首を括って死ぬのも痰か」
「いかにも短気という痰なり」
「では幼児が川などで水に溺れて死ぬのも痰か」
「それこそ冗談という痰じや」
「しからば、夜道山道、辻切追いはぎにあって死ぬのも痰か」
「いかにも、誰しもよく慎むべき油断という痰じゃ」

 

山水の掛け物

よそにもてなしがあり、腰元の須磨が給仕していると、床の間に掛っている雪洲の山水の掛け物を見て、涙をはらはらとこぼす。客それを見て、
「どうして嘆きなさる」ととえば、
「私のおやじもかかれましたが、山道をかくときに死なれました」という。
「そなたの親は絵描きか」といえば、
「いや、籠かきでござりました」

 

落ち目を見るが男

その頃御印文(護符)を頂いた男が、世を去り西方十万億を向いて旅立った。途中六道の辻の方から、誰かが呼んでいるのでそちらを見ると、かって長崎で知りあった友達であった。その男は、
「私は沙婆では極楽往生を願わず、ことに遠国なれば御印文ももうけずに、極楽に行くあてがござらん。見れば、そなたの額には、御印文がござる。羨ましいことでござる。どうぞお共させてはいただけないだろうか」
という。それはならぬと言おうと思ったが、人は落ち目を見るが男だと思い、やがて額と額とをあわせて、連れだって極楽の東門に行った。そこで仁王殿が出てきて吟味がおこなわれた。
「いや、あれは私の連れでございます」
といえば、
「その方は間違いないからつつと通れ。あとの者はにせに決まった。」
「なぜでございます」
「証拠には、御印文の字が裏になっている」
と追い返された。

 

極楽の客人

にわか雨のあとの夕方。路地でひょっこりと知った人と出会った。
「さてさてこの頃は、ごぶさた申しました。」
「手前も昼夜客人があって、忙しさにお見舞いも出来ません」
といえば、
「それはどうして」
「庭前の泉水に、今年は蓮の花が大分咲いたゆえに、昼は方々から見物においでになる」
「それはもっともでござるが、しからば夕方にはおいでなされては」
といえば、
「されば夜分は、極楽から仏様達が遊びにござるゆえに、夜の間も寝ません」

 

幼き一休の引導

一休が十歳ばかりのとき、住職が田舎に行って留守の間に、旦那があい果てた。そこで人々は引導を頼むために、遺体を運んできた。一休は住職が留守であることを告げたが、それでは、代わりに弟子たちにお願いしたいという。あいにく弟子たちも留守をしていたので、一休は心得ましたと言って、さもおごそかに準備を済ませ、死人の入った棺にむかった。まず死人に指差し、次に自分に指差し、最後に両手を広げて「喝」と言った。

この間に住職が帰ってきて、一休の次第を物かげから見ていた。終ってからどのような引導をしたのかと一休にたずねると、一休はそれに答えて、
「死人に指を指したのは、汝が死んだことを申し。自分に指差したのは、この小僧に申し。両手を広げたのは、大きな恥をかいたということを申したのです」

 


中国笑い話

どなりこむ

病家、医者を呼んで診せると、
医者、「私があずかったからにはご心配いりませぬ」と請け合った。
ところが、莫大なお金を使ったのに、とうとう死んだ。病家ではひどく腹を立て、下僕にいいつけ、医者のところにどなり込ませた。しばらくして帰ってきたので、
「悪口ついてきたか」
「いいえ」
「どうしてつかぬ」
「なにしろ悪口つく者があまり大勢で、どうしても割り込めません」

 

葬式を請け合う

小児科の医者、人の小児を薬で盛り殺したので、小児の家ではこれをさんざんあざけった末、
「お前がこの子の葬式を立派に出してくれれば、わしらは何も言うまい」
といった。医者は連れ帰って葬式をすることを承知し、遺体を薬箱にしまった。ところが、途中、ほかの病家に迎えられ、箱をあけて薬を取り出そうとしたとき、あやまって子供の遺体が見えてしまった。病家では驚いてわけをたずねた。そこで
「これは連れ帰って生かすのを請け合ったのでござる」

 

法律

亡くなった夫のため法事をするのに、僧が、
「銀三銭くれたら、必ず西方浄土に行けるようにお経を上げる」
という。ところが死者の妻が悪質の銀をくれたので僧は東方に行く経をよんだ。妻は満足せず、良質の銀を換算して不足分を足し、あらためて西方に行くお経をよんでもらった。そして妻は泣いていった。
「かわいそうに、たった幾分かの銀子のために、あなたを東に行ったり西に行ったりさせたわね。わたしほんとに辛いわ」

 

死体を扇ぐ

亭主に死なれたばかりの女のところに親戚の者がお悔やみに行った。するとその女房が夫の遺体をうちわで扇いでいるので、わけをたずねると、
「やれ悲しや。あの人は、いまわの際に、『再婚するのは、わしの身体が冷え切ってからにせよ』といいつけましたので」

 

精進をまもる

ある将校がいつも念仏を唱えていたので、司令官が
「戦さに臨んで人を殺さねばならないのに、何で一日中念仏を唱えているのじゃ」
というと、
「わたしは口で念仏を唱えていますが、腹のなかでは人を殺す気持で一杯です」
と答えた。

 

陰陽生

二人一緒に船に乗っていくうち、死骸が一つ流れてきた。
「男の死骸だろうか、女のだろうか」と一人がいうと、もう一人が、
「うつぶしているなら男で、仰向けなら女だ」
ところが、その死骸は横を向いて流れてきた。
「これはどうじや」
「これは陰陽生だ」

 

葬式を請け合う

人の小児を盛り殺した医者、その葬式を請け合い、遺体を袖に入れて帰る。その家ではひょっとしてだまされてはと思い、下僕に後をつけさせた。ところが橋の中ほどに来たとき、その医者が突然死んだ子供を取り出して川のなかに投げ込んだ。それをみた下僕は怒って、
「とうしてうちの坊ちやんを捨てた」
とつめ寄ると、医者
「ちがうちがう」
といいつつ、左の袖をあげて、
「お前の家の分はちやんとここにある」

 

何処に平和が

ある亡者、人間に生まれ変るとき、閻魔王が金持にしてやろうと申しわたした。亡者が、
「富は望みません。せめて一生衣食住に不自由せず、平凡に毎日を過ごすことが出来ましたら、満足でございます」
というと、閻魔王、座を下りてきて、
「そのように安楽なところがあったら、どうかわしも一緒に連れていってくれないか」
といった。

 

賠償

ある医者、さじ加減を間違えて人の息子を死なせ、その代償に自分の息子をさし出した。次にある人の下僕を死なせてしまい、その償いに自分のところにいた下僕を提供した。
ある晩、医者の門を叩く者がいた。
「うちの奥様が、産後の病いで、苦しんでおられます。どうぞすぐに来てください」
という。医者、そっと妻にむかって、
「こんどはお前に惚れた人が現われた」

 

顔回上下

ある勉強嫌いの書生は、読む書物が多いのを恨んでいた。『論語』を読んで顔回の死ぬところに来ると、しきりに誉めたたえて、
「よく死んだ、よく死んだ」
と喜んだ。ある人が来て、なぜだと聞くと、
「あの人がもし死ななかったら、『顔回上』『顔回下』を書いて、読むのが大変だろう。」

 

閻魔王、名医を探す

閻魔王は地獄の鬼卒に、沙婆へ行って名医を探してくるように命じ、
「門前に恨めしそうな幽霊がいない医者が名医だ」
と教えた。鬼卒、沙婆に行き、医者の門前を通るが、どこに行っても幽霊がたむろしている。ところが最後にたずねた医者の門前には、幽霊がただ一人しかいない。これこそ名医に違いないと思い切って聞いてみると、昨日店を開いたばかりの医者であった。

 

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