87.12
古代イラン

天国と地獄に通じる橋

先年、松本清張氏がゾロアスター教と飛鳥文化との関連性を説いていたので、関心をもたれた方もあろう。ゾロアスター教は、イランの地で古代アーリア人の文化のなかから預言者ゾロアスターの宣教によって生れた宗教であり、寺院で火を崇拝したため、拝火教徒とも呼ばれている。現在ではインドのボンベイに任むパルシー教徒を中心に、世界で10万人ほどの信者しかいないが、かつては古代ペルシャ帝国の国教であり、ユダヤ、キリスト、イスラム及び仏教に大きな影響を与えた宗教だった。

この宗教では、世界は善と悪、光と間との闘争の場であるといわれ、人間は自らの意志でこのどちらかを選択しなければいけなかった。そして死後、チンワトという橋で生前の審判を受けるのである。善人がその橋を渡ると、橋の幅が広くなって、容易にわたり天国へと入る。しかし悪人が渡ると、刃先のように細くなって地獄に落ちてしまうのである。

さらに人間全体にも審判があり、それは4期、1万2千年からなる世界の終りに行われる。はじめの3千年は霊的世界の創造の時代、次の3千年は物質世界の創造の時代、次の3千年は、世界は神と悪魔の闘争の場となり、原人の性液から最初の男女が創造される。最後の3千年はゾロアスターの出現から最期の審判の時期であり、現代はこの時期に当たる。このときには善と悪とが分けられ、善人は天国に、悪人は地獄に落ちる。そして世の終末には救世主サオシュヤントが降臨し、世界は浄化されるのである。

死体は沈黙の塔で鳥葬となる

ゾロアスター教では浄化を尊び、汚れを極度に嫌った。死体は不浄なものであった。そのため土葬、火葬、水葬によって大地、水、火を汚すことを避けるため、死体は奇習とも思える鳥葬にされた。親類も司祭も死体には触れず、職業カーストにあたる遺体運搬人によって、死者の家からタクマ(沈黙の塔)に運ばれた。その間4回以上、死体に「犬による凝視」がなされねばならなかった。無数の猛禽の舞う塔のなかに死体が置かれると、たちまちのうちに死体は食い尽くされ、骨だけになる。その骨は乾燥した空気と焼け付く太陽のなかで、数日のうちに白くなる。表白された骨は集められ、塔のなかの井戸に投げ込まれる。鳥に死体を食べさせることは人生最後の布施の業であり、富者も貧者も、井戸のなかで、やがては土になっていくのである。

(吉野)

 

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