昨年2月、80歳の義母を亡くした。
老衰の義母は頑固に入院を拒み、3ヶ月ほど家で寝たままで、医師の方から日参してもらう形の継続だったが、最後は眠るように静かな死を迎えた。死の直前、意識のありったけを奮い起こすようにして布団の中から信玄袋を取り出し、妻と私に何か訴えかける様子だった。葬儀の全てが済んで調べてみると、中身は500万円ほどの定期預金の証書だった。
私は生母を4歳で失った。父はその1年後に再婚し、義母との間に娘(義妹)をもうけて、大戦直前に死亡した。義妹は30年前に結婚し、今は他姓を名乗っている。義母は60年近く私と同居生活を続け、女の細腕ながら件名に働いてくれた。私は旧制の専門学校を卒業し、社会に出てからは当然の成り行きとして、私の家計の中心を占めた。それでも義母は60半ばまで仕事をやめず、年金をもらうようになってからこつこつと貯めこんでいたものらしい。
通夜、葬儀、墓地と墓、仏壇に四十九日と、相応の物いりだったので、亡母の残した預金で幾分でも補填させて貰おうと定期の解約に出向いた銀行で支払拒否にあい、開いた口が塞がらぬ思いをした。民法によれば私は義母の子ではなく、何年扶養しようと相続の権利は他家に嫁いだ義妹にしかないのだ。同じ思いは厚生、国民両年金の支給停止の手続きに出向いた社会保険事務所、市役所の双方でも味わう羽目になった。
「あなたは故人の子ではありませんね」と、事務扱いの役人からはっきり念を押されたのだ。似たような境遇の方は、民法の792条から887条にかけての条文を熟読しておいた方がよい。養子縁組することで、子として認められ相続の権利も生まれるのだから。さらに言えば遺言を残すに越したことはない。
子供のいない夫婦の場合や、相続人ごとに特定の財産を指定分配したり、特に世話になった親戚、友人等に遺産の一部の贈与を望む場合等、トラブルを最小限に防止することが出来るのではないだろうか。