縁起の悪い話

[愛知県 主婦 46歳]

イラスト  昨年初め、夫の父親が80才という高齢で他界した。夫は長男であったが、勤めの関係から親とは別居していた。葬儀の不慣れはすべて葬儀社さんにお任せすることで、つつがなく事を運ぶことができたが、問題はその後にあった。本来なら焼場からお骨はその足で墓地へ納骨というのがこの在の習わしのようだった。ところが80才にもなる老人2人をかかえておりながら、まったく不用意にも私達はその時墓地をもっていなかった。
 迂闊だった訳ではない。あえてそれに目をつぶってきたことには理由があった。かつて一度だけ娘の私の口から墓地の話を持ち出したことがあった。ところが普段穏やかな姑が頑固なまでに難色を示した。要は縁起の悪い話だというのである。確かに高齢者を前にお墓の話は酷だったかも知れない。その時私に他意はなかった。ともかく避けて通れぬ現実の前で慌てたくはなかった。だが夫までがその時口裏を合せるように、親の嫌がる事を二度と口にするなと私にクギをさした。
 お墓の話は、そのまま暗礁に乗り上げてうやむやになった。そして今回の舅の死である。親父が何処かに心積りしてあるのだろうと夫はあの時言った。再三、再四、舅の里の寺から墓地の斡旋の促しはうけていたようだが、当面、墓地のないことが私達を慌てさせた。お骨を家に置いておくのは縁起が悪い、とまた姑が言いだした。姑を恨む気はなかった。墓地探しがはじまった。そして運よく墓地に詳しい方の助言に支えられ、四十九日法要までには墓石も間に合わせてもらった。
 その時の気苦労や、お世話になった方々へのお礼は馬鹿にならない額になった。墓地は、若い健康な時にこそ手に入れるべきもののようだ。備えあれば憂いなし、黄泉の国へ旅立つ時位、何んの憂いもなく昇天したいものである。


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