一冊のアルバム

[福島県 主婦 43歳]

イラスト 一冊のアルバムが、ひっそりと本箱の隅に置いてある。32歳の若さで癌のため他界した女性の葬式の一部始終の写真集である。位牌を持ち妻に先だたれ、つらい表情の夫、両脇には、脅えたような表情で父親にしがみつく幼子2人の写真。その撮影日から3年後、私は嫁いだ。
 このアルバムを何気なく手にしたのは嫁いで1カ月過ぎた頃だった。死別とは承知の上ではあったがショックを受けた。何の為に、このアルバムを残してあるんだろうと不思議でもあった。友に「こんなアルバム処分しなさい」と言われたが、私は出来なかった。しかし、このアルバムを見た事で子供達への接し方が決まったような気がした。
 私としては死んだ母親を離した生活をと思っていたが、このアルバムが残っている以上、私は故人と一緒に子育てしようと決心した。命日、盆彼岸は勿論、子供の誕生日、入卒業、賞状をもらったと何かにつけ子供と一緒に仏壇に手を合わせ報告した。主人と子育てで口論、夜中一人で仏壇に「どうしたらいいの」と語りかけた事もあった。
 息子が中3の時、万引きをした。ふてくされる息子を仏壇の前まで引きずってき「私以上に死んだお母さんも悲しがっているよ」と涙ながらの説教に、普段あまり感情を出さない息子が「ごめんなさい」と声をあげて泣き、長時間2人で泣き合った。その息子も今、サッカー一筋の高2である。今年、看護学校入学の娘も、私の姿を通して身についたのか、朝の仏壇にお茶をあげている。あのアルバムに出会わなければ、私の子育ても違っていたかも知れない。人は「何で死んだ人をひきずって生きるの」と言う。しかし、私は引きずってではなく、共に生き、共に子育てをしてきたように思う。だから2人の子供も非行に走る事もなく、健康で素直に育ってくれたのだと思う。


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