4人兄弟は、最近では珍しい。秋祭りか正月のどちらかに家族中が集まるのが、田舎の習わしである。座敷に長男、次男、三男、四男と長幼の順に並び、御馳走に舌鼓し団欒するのが、年に一度の母の楽しみなのである。
ある年、祖母が88歳で亡くなった。近所の講組の人が葬式をしてくれ、夜は『仕上げ』と言って、坊さんをはじめ、講組の人を招いて宴会を催すのである。「男の子ばかり4人よく育ったなあ」と、並んでいる兄弟を見て近所の人が言うのを、母はうれしい顔をして聞いている。 「本当に皆うらやましがっている」と、坊さんまでが言うと、母は一層目を細める。
三回忌と七回忌と終え、今年は十三回忌の法要を営むことになった。ついては、坊さんに日取りの都合を母が伺いに出向いた。帰宅した母の顔色が青白い。
「どうした、坊さんの都合がつかなかったのか」と、僕は思わず尋ねた。
「いや、そうじゃない」と、母が力なく答える。
「では、どうしたの」
「無知と言うのは恐ろしいもんだ。実は大恥をかいた」
「えっ」
「つまりこうなんだ。お坊さんがね、『あなたの4人の子供は非常に良く育ってきた。が、一つだけ間違いがある。と言うのはね、仕上げや法事の時の兄弟の席順なんだがね、いつも長男が上座に居て末弟が末席に居る。これが正式には逆なんだ。遠方から遥々帰ってくる、つまり縁の薄い末弟が上座に座るべきなんだ。家に残っている長男が末席と言うことになる…』と、坊さんが、今日初めて教えてくれたんだ。それを聞いたとたん、力が抜けたもので」と、母が、一気に言った。「別に恥でも何でもないよ。今まで4人は長幼のわきまえのつもりで当然のように座っただけなのだから。法事ではそれが逆になるなんて誰も知らなかったのだから。」と、母を慰めた。
そして、十三回忌の法事が年も押し迫った12月に催された。坊さんが廊下から障子を開けて入って来た。今までとは逆に末弟が上座に居るのを見て、坊さんは、よしよしとうなづいた。そのにこやかな坊さんの顔を見て、母はまた一層目を細めた。