形見の役割

[兵庫県 女性 アルバイター 32歳]

イラスト  私は祖母の形見をいくつか持っています。それは楊の櫛とお手玉と財布の飾り物なのです。これを一つの箱に入れて本棚に置いているのですが、何かしら悲しみに包まれた時や、祖母の事をふっと思い出した時などに、私は箱を開けて、櫛で髪を梳いたり、お手玉を手のひらに乗せたりして、留まった時間の中で、魂を漂わせるのです。やがて安らぎに満ちると、そっとそれらを箱の中に戻して、ふたを閉じます。形見というものは、生きている私達にとって大きな意味を持つものだと思います。思い出は心の中にあればいいと思いますが、時として形になったものの方が、人を励ましたり、優しい気持ちにさせるのが容易ですね。形見はそんな役目を持っているのではないでしょうか。
 私は人生に終わりを告げる際、肉親はもちろんですが、友人にも形見を残したいと考えています。わが人生に彩りを添えてくれた周囲の人達に形見を残したいと思います。昔から手仕事が好きで洋裁や、パッチワークを趣味としていますが、私が死ぬまで、続けるだろうと思われる唯一のものなのです。
 中学2年生から今までの人形の好きな親友には、人形を形見にしましょう。ムーミンに顔が似ているとのことで中学生の頃「ムーミン」と呼ばれていたのでカバの人形を。
 友人Mさんはとても花を愛する人なので、布の花束がいいなと思います。チューリップやスパティフィラム、綿の小切れでいっぱい作って大きな花束を作りましょう。仕事場で親しくなった映画マニアのTさんには映画用パッチワークの膝掛けを作りたいです。
 短大時代から好奇心いっぱいの友人Fさんは、いつも大きなバックを持っており、丈夫で楽しいビッグな布袋。細かいアップリケの模様で技あり、てとこでしょうか。中は仕切がたくさんあって使いやすくしています。
 私は、こうやって、各々の友人を思い浮かべて様々な手作りの品を作っておきます。私を見送る式場では柩の側にそれぞれの形見が友人の名をたずさえて受けとってもらうのを待っていることでしょう。
 お線香を立てて手を合わせる。その後スッと身を引く。というお葬式は、それなりに、慎み深い雰囲気があっていいのですが、友人への形見を手に取って席へ戻るというお葬式ならば、参列の人達も、知人どまりのつき合いの人達が、ああ、あの人は今は亡き人と非常に懇意な間柄だったのだろうと推し量り、静かに故人の交流を偲ぶといった演出もできるでしょう。


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