私が体験したごく身近な例である。高齢に達した母に万一を考え、メモも書き、勤め先には自宅までの地図を準備しておいた。だが事前に予測できるものは常識の範囲内であり、いざ死を迎えると迷うことが多かった。まず葬儀社の人を前にして、でき得る限りの葬儀を出してやりたい思いと、なるべく経費を節減したい気持ちとが交錯し、容易に決断がつかなかった。
葬儀が、一段落して香典の整理を始めた。思ったより大変な作業であった。住所が不明の人、名字だけの人、会葬者名簿を突き合わせ、知人に問い合わせ、なんとか区分けをするのに2日を要した。お返しについて亡き伯母から教えられたことがある。「1000円包む人は義理でくる。1万円包む人は、それだけ喪主に力にならなくてはならない立場にある人。だからお返しを均等にすれば、不意の出費を余儀なくされた喪主は、多少でも助かる。それが香典に含まれた深い意味なんだよ」と。
とはいえ、せっかくの弔慰におろそかにはできない。内訳を見ると、2000円から5万円までの7段階で172件、連名の方々を加えると210人。そこで5000円に対しては6割ほど返し、それ以上は半額、以下を7〜8割と決めた。妻と2人の娘との4人でデパートに出かけたが、目移りばかりして、なかなか意見がまとまらない。
いま思うと、焼香に来てくださった時点で、一定のものをお返しすべきであった。因みに親族の香典は別として、1万円、5000円、3000円の3段階で、その平均額は5285円である。従って4000〜5000円程度の品を選べば、1万円の方に失礼にはならないと思う。
ともあれ、葬儀というと「高い、いくらかかる」という先入観と心配がある。葬儀の規模、運営方法にしても、お返しのことにしても、経験豊かな係員に予算を告げ、腹を割って相談なさることをおすすめしたい。