お布施の中身は空っぽで

[埼玉県 男性 35歳]

イラスト  葬式に隣組の手伝いはつきものだ。事件は私が隣組の組長をしていた時に起きた。近所のおじいさんが亡くなられ、組長なので、現金20万円と印鑑を喪主から手渡された。そのお金で、葬儀にかかる雑費を支払ったり、死亡届けを提出する仕事を仰せ付かった。
 しかし私は隣組の組長の仕事がどんなものかはよく知らず、年配の方に教わりながら手伝いをすることになった。現金を預かったからには、領収書を貰わなければいけない。ところが、墓守や火葬場の人、霊柩車の運転手に、御清めとして渡す寸志など、どうしても領収書をもらえないものがあった。この事については、喪主の方から、組長さんが香典袋に入れて渡してほしいと頼まれていたので、特に問題はなかった。
 葬儀も無事に終り、喪主の家を片付けている時だった。お寺から電話があり、お布施が入っていなかったというのだ。それを聞いてドキッとした。喪主からは、香典袋に喪主の名前を書いておくことは頼まれていたが、お金は、喪主が入れて持って行くものと思っていた。ところが喪主の方は組長の私にお金も入れておくよう頼んだ気になっていたのだ。だから喪主は空のお布施をお寺に持って行ってしまったというわけだ。
 どこにでもありそうなトラブルだが、喪主と隣組の組長である私との間で、きちんとした打ち合わせをする時間がなかったために起きた手違いだと言える。葬儀はゆっくり打ち合わせをしている暇などない。私の方から話しを持ちかけ相談するべきだった。まだまだ尻の青い自分を感じ恥かしかった。


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