焼いたらあかん熱いやないか

[三重県 男性 79歳]

イラスト  父が東京へ出稼中に、母が急性肺炎で急死した。遺されたのが80のおばあと3歳のマサ坊の2人。人情こまやかな山村の人たちの涙を誘う、気の毒なとむらいであった。
 集ってきた親せきや村の人たちが涙をおさえて葬式の準備をしている家の中をとびまわってマサ坊は喜んでいた。平素はおばあと2人きりの家へどっとみんなが集まってきたこと、久しぶりに父が東京から帰ってきたこと、すこし年上だが親せきの従兄弟たちもやってきて遊んでくれること、急なことなのでまだ母の死が実感されないマサ坊は、祭がきたようにはしゃいでいた。それがかえってみんなの同情を集めていた。そんな中で昔から山村につたわっている作法に従って葬式が行われた。雪おろしの北風が吹きすさぶ山坂を葬列は静かにのぼっていった。その葬列の前になり、後になりながらマサ坊は、「雪やこんこ、あられやこんこ」と歌いつつ、走りまわっていた。
 山の上の火葬場には木炭や薪が山とつまれ、その上に棺が置かれ僧侶の読経がはじまると、マサ坊はすすり泣く会葬者の顔を不思議そうに眺めていたが、読経が終って、薪に火をつけようとする叔父さんを見ると「なんや、かあちゃん焼くんか。焼いたらあかん。あついやないか。かわいそうや」突然、マサ坊は、藁の火を薪にうつそうとした叔父さんにしがみついた。
「これ、これ、マサ坊。かあちゃんは、もう仏さんになったんや。さあ、おとうなしゅう拝んでやれ。こうやってな」
 おばあがマサ坊の手に数珠をもたせようとすると、突然、彼は号泣して土の上にころがったが、そのまま失神してしまった。おばあが天を仰いで泣きはじめると、つづいて会葬者がみんなもらい泣きした。原始的な火葬が今だに残っている過疎の村の悲劇である。


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