香典泥棒顛末記

[男性 64歳]

イラスト  不快な許しがたいものの一つに香典泥棒がある。香典泥棒にやられた知人の談だが、遺族の困惑もさりながら、受付の当事者ともなると、死にたくなる程苦悩すると言う。
 故人は高齢であった。小規模な葬儀と思っていたが、意外に200名近い会葬者があった。受付には私と遺族の身内の方一人の2名がいた。私は泥棒を予想したわけではない。単純に整理上、現金と不祝儀袋を入れる箱を別々に用意し、香典帳に記入と同時に仕分けしていった。
 受付席には必ず一人は残り、空席にはしなかったが、焼香が始まり、一人が会場で焼香を済せ、入れ違いに私が席を立った。この間20秒ばかり空席になって、箱の一つが盗まれた。運良く現金入の箱は残って被害は免れた。後で葬儀場の近くで盗まれた箱が発見された。泥棒は近くの物かげにかくれて、スキを伺っていたに違いない。
 会場に入らない喪服の人がいたら、ご案内しましょう、と声をかけるのも泥棒除には有効だろう。彼らは立派なスタイルで、一見紳士風という。
 受付で不祝儀袋を開封して現金を取り出すのは感じがよくないが、小人数の葬儀では、そうもいかない場合がある。同じ箱を二つ準備したことで泥棒は間違えたわけだが、幸運というほかない。現金入りの不祝儀袋をそのまま箱に入れておいたら、そっくり盗まれたことだろう。
 香典受付は敬遠される。しかし誰かがやらねばならない。私は以来2回仰せつかったが、遺族に帳尻を合わせ手渡すまでは、受付の責任と自覚し、席を立つときは必ず現金は鞄に入れて持っていることにしている。これを奪うのは強盗である。
 大きな葬儀で受付が7、8人いる場合でも油断は出来ない、受付や香典を扱う者の無自覚から香典泥棒が時々発生する。たかが香典の受付、といっても世の中不況であり、いつの時代でも犯罪を計画する者は絶えないのであるから、決して軽視油断のできない分掌である。


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