もっと知ってりゃよかったものを

[女性 32歳]

イラスト  「お葬式の心積もりや段取りなんて、しておくものじゃないよ。まるで『待ってました』みたいじゃないの」と、父の見舞いに訪れた遠い親戚の人に言われ、「そんなもんかナ」と、ヘンに納得したのは、4年前の父の亡くなる数日前だった。
 しかし、いざ亡くなってしまうと、忙しいのなんのって…。こればっかりは経験してみなくっちゃ分からない、半端じゃない忙しさだった。自宅へは、隣家の方々が手伝いに来てくださったが、普段お付き合いのない方々ばかりだし、私も結婚して実家を出てしまっているしで、大変ありがたいのだが、どう手伝いをお願いしてよいものか、どのようにお返し、お食事、精進落しをすればいいものか迷った。
 私たちの場合、(1)葬式にまったく不慣れであった事。 (2)準備がまったく出来ていなかった事。(3)私も当時28歳と若かった事。母はショックで気が動転し、弟は成人していなかったし、年子の妹と2人でなんとか仕切ってやらなければならず、ただ無事に葬式をあげようと、それだけで、気持ちの余裕がなかった事。(4)お手伝いの隣家の方々への失礼・無礼をしてはいけないと気負い過ぎ、親戚への配慮が欠けた事。(5)互助会の方々との細かい打ち合わせが、上手に出来てなかった事−−など、いろんな要因があり、それらが一気に吹き出した。たとえば「『霊柩車は会館に行くまでの、タクシー替わりに使ってもらってよい」との互助会担当者の説明を受けていたので、ためらいもせずに従った結果、父方兄弟の大顰蹙を買い、今もって付き合いは、ない。
 私は、身も心もボロボロになり、フォローしてくれる人もなく、ただ『お葬式っていったいなんなのだろう?』と、問う結果となった。やはり、周りに何と言われようと常識として、一通りのことは知っておいたほうがよいと、肝に銘じた。
 父の葬式は、私に人の心根とは? と教えると共に、常識ある人として生きるスタートを切らせてくれたのだと思う。


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