これは私の祖父が亡くなった時の失敗談である。
祖父は生きているうちに自分自身の戒名と菩提寺を決めておこうと考えた。しかし自分が考えていた「○○○○居士」という戒名は、居士の格式であるため、相応の戒名料が必要であった。そこで祖父は喪主である父に負担を掛けまいと、生家の近くにある知り合いのお寺の住職にお願いし、相場よりも格段に少ないお礼で自分の戒名を付けていただくことにした。祖父は自分の戒名に満足し、やがて安心して他界した。
ところが、祖父が菩提寺に選んだお寺は戒名を付けていただいたお寺と違っていたことからトラブルが発生した。菩捉寺に選んだお寺は、すでに戒名の付いた祖父をその名前で埋葬することを断り、結局、父は何度も頭を下げた上で新たに戒名料として大金を用意し、なんとかそのままの戒名で埋葬していただくことになった。
この話は祖父だけでは終わらなかった。10年の時を経て祖母が亡くなったときに、もう一度同じことが繰り返された。そればかりか、祖父母の法事がある度に父は多額の謝礼を用意することになった。もとは子供に負担を掛けたくない祖父の親心であったのに違いない。しかし戒名料の負担を軽くしようとして、菩捉寺に選んだお寺に戒名を付けていただくという普通の手続きを行わなかったばかりに、後に禍根を残すことになってしまった。
生前戒名を用意しようと考える人に、祖父の例を知って注意を促したい。戒名は付けていただく時の戒名料だけではなく、後々の法事のお布施の相場まで変える大切なものだから、残された者の負担をよく考えた上で、策に走ることなく正当な手続きで慎重に用意してもらいたい。