実母が亡くなったのは、昭和40年ですから、既に30年近い歳月が流れたわけですが、その時の苦い経験を、今になっても忘れることができません。
郷里の前橋市で、父と2人で暮らしていた母を、父が亡くなってからすぐに、私達の住んでいる横須賀市へ引き取りました。その母は私達と同居してから、2年後に亡くなりました。
突然だったので、あわただしく、葬儀の準備に取りかかりました。私の家の宗旨は真言宗ですが、遠い前橋市から住職に来てもらうことも出来ないので、葬儀屋に家は真言宗だから真言宗の住職をお願いします、と何度も念を押して頼んだのです。が通夜と告別式に来た住職は、日蓮宗だったわけです。
私は、あまり物にこだわらない性質なので、何でもいいと、気にしなかったのですが、郷里から来た親戚の人達が、お経が違うことに気がついて、小声で話すのを耳にしました。葬儀が終わって初七日が経ってから、その寺へ一旦遺骨をあずけました。その頃、職場の友人に頼んでおいた真言宗の寺の墓地を、買うことができたので、妻と2人で亡母の遺骨を、受取に寺へ行って、事情を話したのですが、住職は大そう機嫌を悪くし「宗旨などは何でもいいのだ」といって承知しないのです。仕方なくその日は諦めて帰り、妻と改めて相談しましたが「せっかく墓地を買えたのだから…」ということで、再度出向き、ようやく遺骨を貰ってきたわけですが、こう書くと簡単ですが、実際は容易ではありませんでした。
それにしても、突然の母の死といっても、85歳にもなった老人のことですから、心の準備はもちろん、それとなく心構えをしておくべきだったと、後悔しました。その後郷里から、遺骨を全部持ってきて、埋葬しました。