間違えられた訃報

[男性 38歳]

イラスト  「茂雄さん、ちょっとこの電報[御尊父さまの死去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます]になっているけど、大丈夫だろうか。弔電の時は、御母堂さまに読みかえて発表するが、職場関係が、全部お父さんの死去となっているけど、連絡はうまくいっているんだろうか」と受付の人が、心配顔で相談に来られた。
 確かに、私が職場の庶務係長に電話で連絡したのは「母が亡くなった」と伝えたんだが、どうなっているのだろうか。
 あとで聞いた話では、お母さんが具合が悪かったと聞いていたが、私茂雄が喪主になっているから、これはてっきりお父さんが亡くなられたと、勘違いしたそうである。葬儀にきた庶務係長は平謝りに謝り、前代未聞の訃報の訂正を、帰社後各職場に通知されたそうである。一般的に、妻が亡くなった時は、夫が喪主を努めることが多いそうだ。ところが妻が亡くなったにもかかわらず夫である父は、自分は第一線を退いているからと、息子である私に職場関係を考慮して、喪主を譲ったのである。父としては善かれとしたことが結果的には「自分が死去した」と私の職場にとられたのである。
 妻が死去した場合は、夫が喪主を努めたほうが妥当であると肝に銘じた葬儀であった。訃報に接するたびに、まちがって弔電がきた、暑い夏の日を思い出す。


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