念珠を探し夜の街をさまよう

[男性 38歳]

イラスト  身内の葬式は、度々経験できるものではなく、通常、祖父母そして父母さらに兄弟と、20年サイクルぐらい時を隔てて経験するものです。その上、看護からすぐに葬式に至るわけですから、疲れと後悔の念に支配され、思考能力も低下している訳です。4年前の父の葬式は本当に疲れました。
 父が死期をむかえたのは、昭和天皇が不治の床に着いた時期と同時期でした。病名も膵臓ガンで、同様な経過を経ているように思いました。死の2ケ月前より、病院に母と私を含む兄弟3人で交代で付き添いました。
 10月下旬、父は血圧が低下し、危篤状態になり血族が集まりました。やがて小康状態が続き、母や兄たちは家へ帰り、私一人で暫く様子を見ることになりました。しかし、その日の夜、容態が急変し、医者が病室に駆け込んで来ました。そして至急家族を集めるように指示しました。私は家へ急いで電話をし、病室へ戻った時には、父はあっけなく死んでいました。たまたま訪れた義兄だけが死に目に会い、血縁者は誰も立ち会えませんでした。最後に目を見開き、見回したという父のことを思うと、今でも後悔の念に駆られます。それからすぐに、義兄とふたりで病室の後片付けに取りかかりましたが、なかなかはかどりません。
 数珠を手に持たねばならないことに気がつきました。隠し持ってきた数珠をどこにしまって置いたのか捜しても見当たりません。しかたなく電話帳を調べ、夜の街をさまよい、やっとの思いで新しい数珠を手に入れ、父の手の指を折まげて持たせることができました。


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