母の遺言

[岐阜県 男性 施設職員 47歳]

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栄治どのへ

 人間は、何時、如何なる事が起こるやも知れぬ。老人のざれ言かも知れぬと思いつつも、やっぱり気になるので書いて置きます。
 いろいろ迷惑をかけてすまなかったね。いずれはこういう事が来る事は、分かっていてくれた事と思う。
 今度こそ、いつまでも安らぎの眠りにつける事と思う。
 とにかく父の時の事を思い出し、心を落ちつけて行動して下さいよ。頼みます。
 先ず、病院から遺体を運んで来たなら、奥の部屋に寝かせて、枕元にはローソク、線香、一本花(小さい物で良い)を飾り、お寺様に来て頂き、枕経をあげて頂く。
 後は、兄弟3人で通夜をして下さい。
 私の好きな曲、ビバルディーのアダージョをかけて下さい。
 主だった親戚と職場の人には来てもらうとして、班の方だけで朝7時位に密葬をしてもらう。公民館でくれぐれも質素な告別式で、35日は遅くなり、班の方に迷惑になるので引きつづきやらない事。
 市民時報(地方紙)へは、おくやみ欄に出さない様に電話し、誰にも知らせないで欲しい。私の身につけた物は、全て捨てるなり、人にあげるなりし、いつまでも私の遺物を見つめ、めそめそしない事。
 人間は、全て生まれた時から一人なのだから、元気を出して男らしくしっかり生きて下さい。それが、母には一番うれしい事です。
 母は、癌で69才で逝きました。誰にも癌という事を知らせず、私の胸だけにしまっていましたが、母はうすうす感じていた様でした。告別式は、お寺で行ない、母の好きな曲も流してもらいました。この遺書は35日に冊子にして見てもらいました。


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