葬儀は結婚式などと異なり、本人の希望がほとんど織り込まれることのないセレモニーである。人生の終末はいつ訪れるか分からないし、事故死などのように、ある日突然やってくることすらある。しかも誰だって、自分の死を予測したくないものである。だから葬儀は本人の意向に関係なく、遺族の裁量にまかされてしまう。生前に本人が「自分の葬式は質素にやってくれ」と、抽象的意向を残しておく程度であろう。もっと人生終末のセレモニーに、自分の考えを反映させることができないものだろうか。
そのためには、葬儀社に「自己葬儀への要望リスト」の用紙が準備されているとよいと思う。葬儀にかかわるさまざまな仕様、つまり祭壇から返礼の品物にいたるまで、カタログを見ながら本人が生前に指定し、用紙に記入しておく。カタログにないような本人のオリジナルな要望も、あわせて記入しておくことができる。例えば自分の趣味で描いていた絵を葬儀に飾りたい人もいるだろう。また自分が丹精こめて育てた盆栽を、自分の葬儀に並べたい人もいるだろう。そんな要望も、忘れずに用紙に書き込んでおく。
葬儀社では、その記載を見て、現在価格での概略の見積金額をはじいてみる。本人は自分の葬式にその位の費用がかかるのかを、あらかじめ知ることが出来るのである。もちろん実際の葬儀はずっと先になるかもしれない。しかし金銭の価値が変わっても、現状の価格でどの位の費用になるのか、そして葬儀の内容が自分の意向に合ったものであるのかどうかを、本人が理解し、納得することができる。もちろん時代と共に新しい仕様に変わってくるかもしれない。だから何年かに一度、葬儀社に自分の仕様を見直してもらうことも可能にしたい。それによって、普段から、葬儀社とのつながりとか、親しみとかいうものが生まれてくれば、よいことではないだろうか。
とにかく、自分の一生の終末を飾る葬式は、前面的に遺族まかせではなく、できるだけ自分の考えを反映させたものでありたいものである。