死の現実を無視して

[女性 33歳]

イラスト  5年前、私の父はガンを告知されてから、2年5ケ月の闘病生活を終え、他界した。先生に肝臓ガンと告知され、よくもって1年だと聞かされた時は、ただ悲しくて、泣くばかりだった。父に知られぬよう、母は介護にいそしみ、私は子供を連れて、毎日病院に通った。1年が過ぎ、父は不思議と元気に見え、自宅療養と病院の生活となり、2年が過ぎた。私も母も、ガンだとわかっていても、父は大丈夫…何故かそんな気がして、安心しきっていた。
 その年の12月、父は入院し、いつも通り退院して、お正月は自宅で過ごす予定で、母も私もお正月の準備をしていた。しかし、12月29日の朝、病状が悪化し、父は他界した。まさか…の出来事で、何も準備していなかったのだから、大変だった。心の準備は、ガン告知でしていたが、そのことが現実になる…と受けとめていなかった。
 年末の忙しい時期、遠方の親戚も呼ばなければならない。29日の夜に通夜をし、30日にお葬式をし、あわただしくて、何が何だかわからない状態だった。葬儀屋さんと、親戚や知人の方の協力で、立派なお葬式をだすことができたが、お焼香の時、自分がちゃんとできたかどうかも、わからない、悲しいばかりでは、事は終わらない。
 火葬場からの帰り道、会場までの道を何台の車が迷い、父がきっと、ドライブしたかったのだろうと、話したが皆が会場に着くまでかなり時間がかかった。父は、保険のきらいな人だったので、生命保険など加入していなかった。葬儀費用や、香典返し、後の法要など、かなりの出費である。
 今、思えば、互助会などに入り、積立をして準備をしておくべきだったと…。


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