私の叔父は、無類の酒好きであった。量そのものは、酒豪というほどのものではなかったが、酒をこよなく愛し、毎日、その顔を見ないとおさまらない状態であった。本当は、毎食でも、酒で喉を澗してから食事をしたい位だったと思う。 そんな叔父だから、当然のことながら?…「胃がん」に侵された。勿論、本人には「胃かいよう」ということで知らせてあった。手術をしたが、既に手遅れであり、病巣はそのままにして閉じた。叔父が入院中、何度か見舞ったが、その都度「もう一度、酒を思い切り飲みたい」と言っていた。
次第に容態は悪化してきた。医者から「もう死を待つほかないので、病人の好むものは何でも与えて下さい」と言われた。そんなある日、叔父は、お茶づけが食べたいと言う。家人は、お茶づけの用意をしたが、私は、病院の近くの酒店から酒を購入してきて、もう、ほんの僅かしか食べないご飯に酒をかけた。お茶づけ飯でなくて、文字通り「酒づけ飯」である。
叔父は、一口食べた。きょとんとした顔をしていたが、次には、にっこりと微笑んだ。三口ほど食べてくれたが、満足し切った顔に見えた。その後、間もなくして叔父は亡くなった。
私は、あの時の酒づけ飯が、命を縮めたのか…とも考えたが、しかし、もう殆んど生きる可能性のない病人に対する、せめてもの心づかいであったと確信している。