<現 状>
死にゆく者に対して、家族が枕元に寄って順番にその口許を水でうるおすことを「末期の水」あるいは「死(に)水」をとるといいます。新しい筆か、箸の先に脱脂綿を巻いて糸でしばり、それに水をふくませて、軽く口を湿らせます。この作法は、本来死者の命が蘇ることを願って行うもので、死者に何かをしてあげたいという遺族の心情にふさわしい儀式といえるでしょう。
かつては臨終の間際に行なわれるものでしたが、現在では息を引き取ったあとに行います。
死水をとる順序は一般に喪主、そして血縁の近い順とされています。
最初は配偶者、次に子、そして故人の両親、兄弟姉妹、子の配偶者、孫の順となります。
・死水をとるのは、ご遺体が病院から自宅に帰ってきて、布団に安置された直後に行われます。
・家族がそろっているとよいのですが、揃っていない場合には、揃うのを待って行うことがあります。
・道具は箸の先に脱脂綿を巻き付け紐で縛り、それに水をふくませて唇を湿らすのです。
・脱脂綿の代わりに、しきみや菊の葉に水をつけ、それで死水をとることもあります。
仏典『長阿含経』の中に「末期の水」の由来となる話がのっています。
「末期を悟られた仏陀は弟子の阿難に命じて、口が乾いたので水を持ってきて欲しいと頼んだ。
しかし阿難は河の上流で多くの車が通過して、水が濁って汚れているので我慢して下さいと言った。
しかし仏陀は口の乾きが我慢できず、三度阿難にお願いをした。そして『拘孫河はここから遠くない、清く冷たいので飲みたい。またそこの水を浴びたい』とも言った。
その時、雪山に住む鬼神で仏道に篤い者が、鉢に浄水を酌み、これを仏陀に捧げられた」とあります。これが仏典にある「末期の水」の由来です。