尊厳死と脳死

1.尊厳死

個人の立場を尊重する立場から、植物状態にある患者などの「死ぬ権利」を認め、自らの意志で人間の尊厳を保ちながら死を選択することを「尊厳死」と名付けています。「尊厳死」の条件として、患者が自らの意志を明確に表明できる段階で、その旨を証拠として残すことが前提となります。平成2年1月、日本医師会の「生命倫理懇談会」は、条件つきで「がん告知」を積極的に推進する立場を取り、さらに患者の自己決定権に基づく「尊厳死」を事実上容認するところまで踏み込んでいます。しかし平成3年、神奈川県の東海大学病院の「安楽死」事件などにもあるように、「安楽死」問題はまだまださまざまな問題を抱えているようです。またこの事件をきっかけにして、「尊厳死協会」(東京都文京区)に入会する人が増大し、平成4年現在4万人を突破したといいます。

なお尊厳死協会が推進している「リビング・ウイル」(延命医療を拒否する意志を事前に宣言する書類)では、
(1) 不治で死期が迫っていると診断されたときは延命措置を拒否する、
(2) ただし、麻薬など苦痛を和らげる処置は希望する、
(3) 数カ月以上にわたって植物状態に陥ったときは一切の生維持措置をやめてほしい、
の3点です。

従来、死の判定は、
(1) 心臓が停止する、
(2) 呼吸が停止する、
(3) 瞳孔が開く、
の3点でしたが、脳死は、無酸素や障害により、脳が永久に機能を失った状態(不可逆的機能消失)を指します。

1985年(昭和60)12月、厚生省の「脳死に関する研究班」は次の基準を「脳死の判定」としました。
(1) 深い昏睡(こんすい)、
(2) 自発的呼吸の消失、
(3) 瞳孔(どうこう)が固定し、瞳孔径は左右とも4ミリ以上、
(4) 脳幹反射の消失、
(5) 平たん脳波、
(6) 以上の条件が満たされた後、6時間経過をみて変化がないことを確認する、
の6点です。

厚生省脳死判定基準(いわゆる竹内基準)は「前提条件」、「除外例」および「判定基準(判定のための諸検査)」で構成されています。

(1) 脳死診断を行う患者の前提条件
  1.器質的に脳が障害されている
2.深昏睡・無呼吸である
3.脳障害の原因が確実に診断されている
4.適切な治療をもってしても回復不能である、
の4点です。
(2) 除外例
以下の患者に対しては、脳死の診断をしてはならないことになっています。
1.6歳未満の小児
2.薬物中毒、32℃以下の低体温、代謝・内分泌障害
などの症例では、脳死と非常に紛らわしい状態になることもあるため、脳死の診断から除外する。

 

2.臓器移植法

人間の臓器移植の中で、腎臓と目の角膜についてはすでに法律で移植が認められていました。そのため臓器移植法については、以前から医療関係者を中心に成立が望まれており、1994年4月に14名ほどの議員から国会に提出されていました。そして1997年6月17日に、「臓器移植時の場合のみ脳死を人の死とする」という臓器移植法案が国会で可決、成立しました。9月5日には、10月16日の法施行前に厚生省の運用指針案「臓器移植法の運用に関するガイドライン」が承認されました。

その骨子は、
一、 臓器提供の意思表示は15歳以上。
一、 臓器提供を承諾する遺族の範囲は配偶者と子、父母、孫、祖父母の直系二親等以内の親族および同居の親族とし、喪主が総意をまとめるのが適当
一、 臓器提供の最初の数例は大学病院と日本救急医学会の指導医指定施設に限る。
一、 臓器提供に伴う脳死判定の手続きなどの説明は臓器移植ネットワークのコーディネーターが行う。
一、 死亡時刻は2回目の脳死判定終了時とする。
一、 脳死移植は移植関係学会合同委員会が選定した施設に限定する。
一、 検視が必要な脳死者は捜査機関の手続きが終わった後でなければ臓器を摘出してはならない。
とあります。

 

Copyright (C) SEKISE, Inc.

[もどる] [ページの先頭]