弔辞は故人を弔い送るのみではなく、生前の業績をたたえ、故人の人となりや経歴を参列者たちに伝えるのが目的です。弔辞は奉読後に祭壇に供え、最終的には遺族のもとで保存されます。
弔辞は大判の巻紙か奉書紙に毛筆で書くのが正式です。縦書きで、巻紙では最初に10センチほど余白をとって書き出し、奉書紙の場合は、1枚に収まるように書きます。いずれの場合にも、奉書紙1枚を半分に切った上包み用紙を左前に3つ折りにし、その上に「弔辞」とか「弔詞」と上書きします。
弔辞の長さは決まりはありませんが、一人3〜7分で、5分以内がよいでしょう。また、奉書紙一枚に書く場合には、一般的に400字詰原稿用紙2枚ぐらいを基準にするとよいでしょう。これならば、朗読時間も2、3分程度ですみます。
文章は簡潔に哀惜の情を素直に表現するのが理想ですが、ときにはむずかしい熟語を用いたりします。しかしいたずらに修飾した語句とか、「薬石効なく入滅され」「哀惜痛恨にたえず」といった紋切り型の常套句は避けたいものです。一般には、ごく普通の口語体の文章で書きますが、格式を重んじる場合には、文語体を用います。
弔辞のなかに故人の経歴や業績を入れる場合には、事前に遺族や関係者に確認しておきます。死亡原因(病気とか事故)については、あまり詳しく述べたりしないのがマナーですが、死に至った経緯などは、ある程度知っておいたほうが故人の一生を掴むうえで必要でしょう。また、自分の気持ちを率直に表すことも大切ですが、遺族や参列者に不快感をあたえるような記述は絶対に避けます。
立場にもよりますが、遺族を励まし、力づけるような言葉を入れておくのもよいでしょう。逆に、哀惜の情を示すあまり、必要以上に遺族を悲しませるような表現は避けたいものです。また、ほかにも弔辞を捧げる人がある場合には、遺族にその人と故人との関係を聞いておいて、なるべく内容が重複しないよう配慮します。
忌み言葉は、遺族や参列者に不快感をあたえたり、葬儀の雰囲気を乱したりすることがありますので、使わないのがマナーです。「くれぐれも」とか、「返す返すも」「重ね重ね」などの「重ね言葉」も使いません。これは不幸が、重ならないようにとの願いからでたものあり、同じ意味で、「幾重にも」とか「再三」「追って」なども使わないほうがよいでしょう。
一般的に弔辞は故人への呼びかけの言葉で始めます。「謹んで○○さんの御霊前に申し上げます」「ここに○○株式会社専務取締役○○○○氏の葬儀が執り行われるにあたり、謹んで同氏の御霊前に申し上げます」等、呼びかけ方は、弔辞を捧げる者と故人との関係によって違ってきます。ただし、キリスト教式の葬儀では、呼びかけはしないことになっています。
文章構成は、冒頭の呼びかけに始まり、内容は
(1)故人の死に対する驚きと悲しみをこめての惜別
(2)故人の簡単な経歴と自分との関係
(3)故人の功績や人間的長所を賛える
(4)遺族への慰めと励まし
(5)故人の業績などを継いでいく決意
弔辞は書き上げられた文章を朗読する形式がほとんどで、司会者に呼ばれたら霊前に進み、まず僧侶、遺族席に一礼します。次に遺影に一礼して弔辞の包みを開きます。そして以下次の順序で行います。
(1)右手で持っていた弔辞を両手に持ち直し、ていねいに包みから取り出す。
(2)上包みをたたみ、側卓に置く。(側卓がなければ懐に入れるか左手に持つ)
(3)左手に持った弔文に右手を添えて開く。
(4)両手で捧げ持つようにし、口の高さに差し出しゆっくりと読み上げる。
(5)読み終わつたら、もとのように上包みに戻し、表書きを霊前に向け卓上に置く。
(6)遺影に一礼したあと僧侶、遺族席に一礼して席に戻る。
※弔辞は、読み上げるだけで持って帰ることもあり、また、病気や諸事の都合で葬儀に参列できない場合は弔辞をテープに吹き込んで代理の者にもたせ、それを回してもらうこともあります。葬儀場へは、ふくさで包んで持っていくのが正式です。用意できない場合は、きれいな紙に包んで持っていきます。
弔辞は故人へ語りかけると同時に、その遺族や参列者にも聞いてもらうものです。ですから、耳で聞いてわかりやすい言葉や発音しやすい言葉を選びます。そして、
■低く静かに
■ゆつくり一語一語かみしめるように
■心をこめ、ていねいに読み上げることが大切です。
弔辞を読む時の感情の表現はむずかしく、悲しみをそのままストレートに表現したのでは、かえってわざとらしくもなり、また、あまり形式ばった言葉や美辞麗句の羅列でも困ります。
格式のある弔辞とは、故人を追慕し弔う心のあり方が、素直に文章の中ににじみ出ているものといえましょう。