1999.08
死と葬儀の映画

  映画のなかで死や葬儀を扱った作品は少なくない。死はドラマのなかでも決定的な重要性をもって我々に語りかけてくるからである。今回は日本と海外の映画のなかで、死と葬儀を扱った映画を取り上げてみた。
  日本映画では、伊丹十三の『お葬式』がもっとも有名で、これ以後、葬儀はマスコミに取り上げられてタブーではなくなったようだ。
  外国映画では昨年日本で公開された韓国映画『祝祭』が、韓国の葬儀に集まる人々の人間模様を諷刺した作品で話題となった。


日本映画

生きる

  監督/黒澤明
  市役所の市民課長の渡辺(志村喬)が、雪の降る新公園でブランコを揺らしながら「ゴンドラの唄」を歌う場面は映画史上に残る名場面である。
  生命短し恋せよ乙女
  赤き唇あせぬまに
  この映画は、初老の男ががんの告知を受けてから、残された時間を如何に生きるかを描いたもの。主人公は死に直面してこれまでの自分の人生が無意味であったことに気付く。しかし残された時間はわずかである…。男が死んだあと、通夜の席にかっての同僚が集まるが、そのときの会話が大変に面白い。人の評価は、死んだ後、はじめて定まるのである。
  出演 志村喬/千秋実/小田切みき/藤原釜足/金子信雄/左卜全/渡辺篤/宮口精二/加東大介
  1952年(143分)製作/配給 東宝/ベルリン映画祭銀熊賞


お葬式

  監督 伊丹十三
  映画には向かないと思われたお葬式を面白く描いた画期的な作品。江戸屋猫八が演じる葬儀屋は古いタイプであるが、葬儀の手順をビデオで見て勉強するというのは、時代の先端を行っていたようである。監督本人は死後、葬儀をしないように言い残しており、家族だけで見送っている。
  出演 山崎努/宮本信子/菅井きん/大滝秀治/財津一郎/笠智衆/江戸屋猫八/尾藤イサオ/岸部一徳/津川雅彦/高瀬春奈
  1984年(124分)製作/伊丹プロ スタンダード/日本アカデミー作品賞


午後の遺言状

  監督 新藤兼人
  乙羽信子、杉村春子の遺作。別荘に避暑に来た老女優の周りで起こる出来事を通じ、「老い」と「死」の問題を考えるのに最適。乙羽は医師に余命1年半といわれ、すでに1年が経っているのを覚悟の撮影。平成6年5月から撮影を開始、9月に撮影終了。完成直後の10月22日に亡くなった。
  ベテラン舞台女優(杉村)が蓼科の別荘に訪れる。その別荘の元管理人は首吊り自殺をしたが、あらかじめ棺と棺の蓋を打ちつける際に使う釘うち用の石を準備していた。その石がまた大きいのである。その別荘にかっての役者仲間であった牛国夫妻が訪ねて来る。夫人の方はぼけが始まっており、別れを告げに来たようである。
  高齢者夫婦の一方がぼけになると、それを介護する伴侶はどうしたらよいかということも、避けては通れない問題として訴えている。
  出演 杉村春子/音羽信子/観世栄夫/朝霧鏡子/松重豊/津川雅彦/倍賞美津子/永島敏行
  1995年(112分)製作/近代映画協会/日本アカデミー作品賞


社 葬

  監督 舛田利雄
  現職社長が死亡した場合、社葬は故人を送る儀式であるとともに、次期社長の跡目披露の場でもある。大手新聞社の社長が死亡し、社葬の準備が進められていく間に、次期社長の座を狙って重役たちの暗躍が…。
  社葬がどのように進められるかを知る参考にはならない。
  出演 緒形拳/十朱幸代/江守徹/吉田日出子/井森美幸/芦田伸介/イッセー尾形/加藤武/北村和夫/若山富三郎/高松英郎/根上淳
  1989年(129分)製作/配給 東映


どえらい奴

  監督 鈴木則文
  長谷川幸延の小説『冠婚葬祭』を映画化したもの。主人公は親方が霊柩車改造に反対するため、親方の娘と霊柩車で駆け落ちする。
  出演 藤田まこと/長門裕之/藤純子/青島幸男/犬塚弘/谷啓
  制作/東映 1965年


とむらい師たち

  監督 3隅研次
  勝新太郎演じる男が、葬儀屋業界でのし上がっていく姿を描く。葬儀の広告を出したり、現在の葬儀会館を作りあげるなど、葬儀ビジネスの世界を面白く描いている。原作は野坂昭如。
  出演 勝新太郎 /伊藤雄之助/藤村有弘/西岡慶子/藤岡琢也/財津一郎
  脚本/藤本義一 1968年 製作=大映


勝手に死なせて

  監督 水谷俊之
  新しい葬儀を目ざす家族と既成の葬儀にこだわる親戚の葛藤を描いたブラックコメディ。海外赴任先で夫が事故死。妻は遺体を引き取りに飛行場に駆けつけるが、遺体を乗せた棺が謎の女に運び出されてしまう。葬儀は故人の遺志で無宗教で行おうとするのだが、信心深い親戚がそれに反対する。死体役は風間杜夫。
  出演 名取裕子/風間杜夫/石橋けい/立河宣子
  1994年(95分)製作=バンダイビュジュアル


お日柄もよく ご愁傷様

  監督 和泉聖治
  結婚式の仲人を引き受けた日に親が亡くなり、てんてこまいをする一家の主人を描く。
  出演 橋爪功/吉行和子/布施博/伊藤かずえ/新山千春/根岸季衣/野村祐人/古尾谷雅人/松村達雄
  製作=G・カンパニー=ホリプロ=東亜興行=エルセーヌ 配給=東映
  1996年(105分)


生きない

  監督 清水浩
  保険金目当てに自殺しようとする人々を集めた沖縄バス・ツアーに、何も知らない少女が参加してしまうブラック・コメディ。何千万円も借金をかかえていても、事故で死亡すれば見舞金と保険金で1億以上の金が遺族に入るのである。しかし目的地に近付くにつれて、参加者の心は沈んでいく。死の執行を待ち受ける死刑囚の気持ちであろう。遺族に遺書が書けないというのは悲劇である。それはあくまでも突然の事故をよそおわなければならないからだ。
  出演 ダンカン/大河内奈々子/尾美としのり/左右田一平/温水洋一
  1998年(110分)製作/配給 バンダイビジュアル=TBS=東京FM=ヘラルド=オフィス北野  ロカルノ映画祭全キリスト教会賞


  監督 黒澤明
  「こんな夢を見た」ではじまるオムニバス短編集。狐の嫁入りにはじまって、雛祭り、雪女と日本的なテーマが取り上げられる。最後の第8話「水車のある村」では99歳の老婆の葬列シーンがある。この村ではカラフルな衣装を着た村人たちが葬列をなし、ある人々は花を撒き、ある人々は楽器を演奏し、ある人々は歌声を響かせながら墓場まで行進していく。それはニューオリンズのジャズ葬を思わせる大変に賑やかな葬儀である。
  出演 寺尾聰/倍賞美津子/原田美枝子/いかりや長介/笠智衆
  1990年(121分)製作/配給 黒沢プロ/ワーナー


愛を乞うひと

  監督 平山秀幸
  台湾生まれの父は日本で死亡し火葬にされたが、遺骨がどこにあるかわからない。ひょっとして台湾にもって帰っていった人がいるのか?亡き父の遺骨を求めて主人公の照恵は、娘の深草を伴って父の故国台湾へ旅する。台湾の葬儀場で華やかな花環が登場する。最後に照恵は、父の遺骨を探すために、外国人登録のある課に出向くが…。
  出演 原田美枝子/野波麻帆/小日向文世/熊合真実/國村隼/中井貴一
  原作 下田治美
  1998年(135分) 製作/配給 東宝=角川書店=サンダンス・カンパニー/東宝


外国映画

マイ・ガール

  監督 ハワード・ジーフ
  11歳の少女ベーダが主人公。彼女の父は葬儀会館の経営者。ある日、若い美容師シェリーが雇われてくる。
  葬儀会館の地下にエンバーミング室があるなど、この映画を見ると、アメリカの一般的な葬儀会館の様子がよくわかる。
  出演 ダン・エイクロイド/ジェミー・リー・カーティス/マコーレー・カルキン/アンナ・クラムスキー/グリフィン・ダン
  1991年(102分)配給/コロムビア=トライスター(原題MY GIRL)


友よ、風に抱かれて

  監督 フランシス・フォード・コッポラ 戦没者を埋葬するアーリントン墓地を管理する陸軍第3歩兵隊のベテラン軍曹ハザードと新兵ウィローの仕事振りを描く。戦死者を弔う立場からベトナム戦争をとらえた作品で、戦死者を大切にするということを組織的に行うところがすごい。
  出演 ジェームス・カーン/アンジェリカ・ヒューストン/ジェームズ・アール・ジョーンズ
  1987年アメリカ(112分)(原題GARDENS OF STONE)


お葬式だよ全員集合

  監督 チャーリー・ピータース
  父が急逝し、長男ジョニーが葬儀を仕切ることになる。家族の一人が亡くなると、これまで疎遠になっていた親族が一同に会し、これまでの生き方があらためて確認されなおすということは、世の東西を問わず同じである。それぞれに問題を抱えた弟や妹が一同に会して、ハプニングの連続のお葬式コメディ。この家庭はアイルランド系であるため、通夜は自宅で行われている。
  出演 ボブ・ホスキンス/ブレア・ブラウン/ティム・カリー/フランシス・マクドーマンド
  1992年(97分)配給/ハリウッド・ピクチャーズ(原題PASSED AWAY)


フォー・ウェディング

  監督 マイク・ニューウェル
  原題は「4つの結婚式と1つのお葬式」で、結婚に臆病なイギリス人男性チャールズとアメリカ人女性キャリーの恋を描く。葬儀はイギリス式。
  出演 ヒュー・グラント/アンディ・マクドウェル/クリスティン・スコット・トーマス/サイモン・カロウ
  1994年イギリス(118分) 製作/ポリグラム(原題FOUR WEDDINGS AND A FUNERAL)


バックドラフト

  監督 ロン・ハワード
  シカゴの消防士が主人公で、放火による連続殺人を描いたスペクタクル映画。建物が炎に包まれるシーンは大迫力であると共に、危険を覚悟のうえで現場に飛び込んで行く消防士たちには感心させられる。映画は消化活動で殉職した消防士の葬儀から始まる。制服を着た消防士たちの墓地までの葬列パレードは壮観であるが、日本では交通事情が許さないだろう。
  出演 カート・ラッセル/ウィリアム・ボールドウィン/スコット・グレン/ロバート・デ・ニーロ
  1991年アメリカ(136分)配給/ユニヴァーサル(原題BACKDRAFT)


禁じられた遊び

  監督 ルネ・クレマン
  戦争での疎開の途中、戦闘機の機銃掃射によって両親を殺された少女が、スペインの片田舎に転がり込み、そこの少年と仲良くなる。天才ギタリストのナルシソ・イエペスが、哀愁を帯びたギター演奏で心を捕らえる。少女の滞在先で葬儀が行われるが、霊柩車が昔ながらのスタイルで興味を引く。
  出演 ブリジット・フォッセー/ジョルジュ・プージュリー/ジャック・マラン/リュシアン・ユベール
  1952年フランス(102分)/アカデミー外国語映画賞/ヴェネチア映画祭金獅子賞(原題JEUX INTERDITS)


第三の男

  監督 キャロル・リード
  第2次大戦後、アメリカの作家がウイーンに友人を訪ねるが、彼の死を聞かされる。しかし疑問を抱いた彼は隠された事実に至る。最後の埋葬のシーンでは、立会う人も少なく、クールに描写されている。
  出演 ジョセフ・コットン/オーソン・ウェルズ/アリダ・ヴァリ/トレヴァー・ハワード
  原作・脚本/グレアム・グリーン/音楽/アントン・カラス
  1949イギリス(105分)製作/ロンドン・フィルム アカデミー撮影賞/カンヌ映画祭グランプリ(原題THE THIRD MAN)


ラブド・ワン

  監督 トニー・リチャードソン
  英国から伯父を頼ってハリウッドへ来た詩人デニスは、近代的な葬儀会社「ささやきの霊園」の営業マンとなる。映画のなかで霊園と葬儀会社の経営戦略が語られる。原作はイヴリン・ウォー。
  出演 ロバート・モース/ジョナサン・ウィンターズ/ロッド・スタイガー
  1965年(108分) 製作/配給 フィルム・ウェイズ


黄色いリボン

  監督 ジョン・フォード
  退役を控えた騎兵隊大尉の砦に、インディアンの襲撃が始まる。インディアンとの戦いで死亡した戦友を埋葬するシーンでは、空に向けて弔砲を射つという儀礼が行われる。
  出演 ジョン・ウェイン/ジョーン・ドルー/ジョン・エイガー/ヴィクター・マクラグレン/ベン・ジョンソン
  1949年アメリカ(103分)製作/配給 アーゴシー・ピクチャーズ アカデミー撮影賞(原題SHE WORE A YELLOW RIBBON)


ゴーストパパ

  監督 シドニー・ポワチエ
  妻に先立たれ3人の子供を抱えたサラリーマンのパパが交通事故に遭い、幽霊になって家に帰って来た。仕事を片付けるまでは死んではいられないと、一家をあげての悪戦苦闘が始まる。暗い所では姿が見えるというゴースト・コメディ。アメリカでは死んだあとも幽霊となって残された事件を解決するたぐいのゴースト・コメディが少なくないが、これもその一つ。
  出演 ビル・コスビー/ キンバリー・ラッセル /デニース・ニコラス
  1990年アメリカ(92分))配給/ユニバーサル


トリコロール 青の愛

  監督 クシシュトフ・キェシロフスキ
  作曲家の夫と娘を交通事故で失い、ただ一人生き残って未亡人になってしまったジュリーは、人生の意味を失う。しかし強烈な悲しみもやがて昇華されていく。
  彼女は入院中のため、葬儀には参列出来ず、葬儀の模様がビデオに録画され、病室でそれを見るというシーンがある。
  出演 ジュリエット・ビノシュ/ブノワ・レジャン/フロランス・ペルネル
  1993年 フランス=スイス=ポーランド(99分)
  製作/配給 MK2プロ=CED=FR3シネマ=CAB=トール/KUZUIエンタープライズ/ヴェネチア映画祭金獅子賞、女優賞(J・ビノシュ)(原題 TROIS COULEURS BLEU)


菊豆(チュイトウ)

  監督 張芸謀(チャン・イーモウ)
  20年代の中国、大金を積まれて染物屋に嫁いだ菊豆は、夫の虐待に耐えなければならなかった。やがて密かに夫の甥・天青と結ばれて息子が生まれる。夫は中風で倒れて、葬儀が行われるが、その地方独特の葬儀で、葬列のシーンは大変に印象的。
  出演 鞏俐(コン・リー)/李保田(リー・パオティエン)/李緯(リー・ウェイ)/張毅 原作・脚本/劉恒(リュウ・ホン)
  1990年中国=日本 (95分) 製作/中国電影合作制片公司 カンヌ映画祭ルイス・ブニュエル賞


祝 祭

  監督 イム・グォンテク(林権澤)
  韓国の伝統的な葬式を行う場面を中心に、そこに集う人々の生きざまをユーモラスに描いている。母の訃報を受けた作家のチュンソプは、妻娘と共に故郷に戻る。到着すると、すでに親族や近所の人々によって葬儀の準備が進められている。
  葬儀は儒教式でなじみの薄いものだが、葬儀の場面に字幕で説明が入る。喪主はもちろん、親族までも全員白の喪服を着ているのが印象的だ。ちなみに日本でも明治時代までは喪服は白だったのだ。通夜の参列客が食事と酒の接待を受けるのは日本でもよく見られる光景だが、花札やサイコロ賭博に熱中するというのは映画のなかだけのことか。
  映画のなかでは葬儀で哀歌を歌う人間が雇われ、彼が歌う場面は面白く描かれている。また葬列のシーンで親族は、短い杖をついておじぎをしたまま歩いているような場面があり、そうした習慣も興味深いものがある。韓国では同時期にパク・チョルス監督の『学生府君神位』という葬儀を描いた作品が制作されている。
  出演 アン・ソンギ/オ・ジョンヘ/ハン・ウンジン/チョン・キョンスン
  原作/イ・チョンジュン 1996年韓国(102分) 製作/配給 泰興映画社

 

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