1996.10 |
土葬と火葬は、人類がはじまって以来繰り返し行われてきた人間の葬送の形態であった。しかし最近では散骨というものが脚光を浴びている。散骨は人間を火葬にしてからその焼骨をまく行為であるから、火葬に入るであろう。それがテクノロジーや既成葬儀への見直しから新しい一つの流れになろうとしている。
テキサス州にあるセレスティス社が、宇宙散骨を準備している。同社は宇宙に遺灰を返すにあたって3つのメニューを用意している。
(1) <アースビュー>は、第1回のフライトが1996年の第14半期に予定されているものである。故人の遺灰は、地球軌道宇宙探索ロケットの2弾目の積み荷になる。この積み荷は、何年もの間軌道に残るが最後に大気圏に再突入し、完全に蒸発して散るという環境に優しい方法である。
(2) <スターバースト>はまだ最初の発射予定は決まっていない。故人の遺灰の積み荷は、宇宙探査ロケットで実施される。
遠地点(50キロメートル)に至ると積み荷は再突入し、そこで蒸発し解き放される。
(3) <ボイジャー>は地球 − 月システムの軌道をめぐるものである。参加者が多数必要とされる為、最初のフライトは1998年以降となる。
1人分の遺灰は4分の1オンスである。発射された遺灰の残りは、ヒューストン(テキサス)のセレスティスメモリアル・センターに埋葬される。この計画にはすでに何人もの著名人が申し込んでいるが、日本人はいないようである。
現在、世界的に環境保護の動きが活発になっているが、それが葬儀業界にも求められてきた。環境保護団体では、遺体処置による国土と空気への汚染を心配している。一つはエンバーミングによる防腐剤を注射された遺体が、埋葬され腐敗したあと浸み出た液が地下水を汚染する危険を説いている。多くの共同墓地では、墓の基底に防水処置をしているが、浸出を止める確信がある訳ではない。
一方火葬による放出物も、環境公害を引き起こす。フロリダとカリフォルニア州では火葬規制が設けられている。フロリダ立法府は、火葬に伴う危険な物質の排出を減少させるため、火葬温度を200度から982度に規制した。カリフォルニアでは、遺体や棺を焼いたあとの汚染物からダイオキシンが高レベルで存在したので、さらに規制が設けられるかもしれない。
規制のもう一つは、火葬場を人口密集地から離れた場所に移転させること、あるいは空気の浄化を促進させる樹木を植えることを義務づける案も出ている。これが火葬の値上げにつながる恐れがある。
またある人は、プルトニゥム・パウダーのペースメーカーをつけていた遺体を火葬することの影響を心配している。ペースメーカーにプルトニウムバッテリーを使用していたものは、汚染原因となるからである。その他、火葬したさいに、汚染物質を出さない材質のもの(たとえば澱粉)で棺を作るなどの商品がイギリスで販売されている。
欧米での火葬は、普通遺族がそれに立ち合うことはない。そこで火葬場の釜の前は日本のように立派ではなく、作業場そのもの外観をしている。当然、火葬に使用される棺は可燃物でなければならないし、炉に入るサイズでなければならない。北米火葬協会では、遺体を入れるコンテナは、「作業員の健康を守るだけの強度がなければならない」としている。また外見においてもそれなりの『威厳』が必要とされる。木製の棺が使われるようになると、棺を焼いた灰を入れる容量をもつ壷が必要となった。
現在「火葬にふさわしい」棺には、適切とされたマークが付けられる。ふさわしくない代表として、繊維ガラスやプラスチック製の棺、あるいはプラスチックで補強された棺があるが、これらの材は燃える際に有毒ガスを発生させるから危険である。
イギリスの火葬連盟では、火葬用の棺を長さ7フィート以下、幅28インチ以下、高さ22インチ以下と決めている。火葬用の棺は、強度に耐えるだけの最低限の金属を使用して作られる。そして棺の裏は、過度のおが屑や原綿を含んではいけないなどの規定がある。北米火葬協会では遺体袋(プラスチックかキャンバス地)の非金属のコンテナの使用を健康と安全上の理由から反対している。
ある火葬場では、金属製の棺も引受けている。それは金属が高温でも燃えないため、火葬された遺灰と不撚物とを選り分ける手間がかからないからである。しかし多くの火葬場は金属の棺で内部をひっかく傾向があるので、金属の棺の使用に反対している。
日本では「葬送の自由の会」が海での散骨を行って、日本の葬送史に着実な足跡を残したが、アメリカでは散骨は以前から行われていた。しかし土葬が主流な国であるため、散骨そのものは多いとはいえない。彼等は大抵家族の遺灰を山頂や思い出の川に流したりするが、ときどき航海中の船や小型飛行機からまくことがある。火葬の始まったばかりの1887年、ピッツバーグ(ペンシルベニア)で亡くなった人が、エルベ号の船長によって大西洋の中央に散骨された。
プロによって行われる散骨では、散骨のあと、散骨のスナップ写真を撮影したり、散骨地点の位置を示す記録を添えて遺族に送るサービスが行われている。
最近までカリフォルニア州では散骨は法律で禁止されていた。しかしこの軽犯罪によって罰せられた人は少なかった。しかし人々の運動によりカリフォルニア州で解禁となり、現在では二つの州だけが、散骨を制限しているという。
現在カリフォルニアでは地域の散骨制限があるし、飛行機による散骨も制限がある。また散骨によって被害を受けた人があったため、空からの散骨の場合には、骨粉は直径8分の1インチ以下に細かくすることが規定されている。
散骨の他に、火葬しない遺体をそのまま海に投じる水葬という葬法がある。「アメリカ沿岸警備規則」1412によると、水葬について以下の規則が定められている。それは遺体を海に投じるエリアとして、海岸から3マイル沖合いであること。また水深は600フィート以上の地点であること。そして遺体は海底に素早く沈み、そして浮上してこないこと。花輪などは海を汚染しないように分解しやすい材質で作られていること。などをあげている。そして水葬を実施したあとには、30日以内に報告書類を提出することが定められている。
カルフォルニア州ではネプチューン協会とテロフェーズ協会が、海での埋葬(水葬)を仕事にしている。彼等は州の規則に従っているばかりでなく、環境局のための必要書類の手続きをしている。また水葬はアメリカ海軍と米国沿岸警備隊が、退職者と扶養家族のためにこのサービスを行なっている。
ネプチューン社のヨット(ナイアド号)は、海での散骨サービスを実施している。同社の料金表を見ると、次のようになっている。(96年現在)
・個人的な海での散骨サービスは695ドル。これには生花と清涼飲料水と食物、および散骨の日付と散骨地点を示す「追悼記録」が付属されている。もし希望日があれば申し込み、聖職者も追加費用なしで手配してくれる。散骨に使用するナイアド号は、乗客が32人乗れる。
・家族と友達による海での散骨は395ドルで、ナイアド号でゴールデンゲート橋近くで散骨を行う。生花、飲食物、聖職者の手配、そして散骨日と地点を示す「追悼記録」が提供される。この費用内で8人までの家族の参加が可能であり、1チャーターあたり3家族まで乗船するが、式典はそれぞれに行われる。(9名から16名までは、追加費用として200ドルかかる)
・海での単純な散骨/85ドル。家族や友達の参列しない海での散骨。オプションとして家族への遺灰の配達は55ドルがある。これは火葬された遺灰を、コンテナか骨壷に入れて、30マイル以内の地域に配達するサービスで、火葬された遺灰を、アメリカ国内ならどこにでも郵送する。この費用には準備、金属輸送壷、郵送料が含まれ、書留で送られる。
飛行機から散骨して失敗に終わった話はいっぱいある。典型的なものは、軽飛行機の小さい窓から海に遺灰を捨てようとする初心者に起こる。不幸にしてパイロットが飛行機の速度を遅く出来なければ、風が灰を飛行機の後方に吹き飛ばしてしまう。
一方散骨は、カリフォルニア、メイン、ノースカロライナ、フロリダ、ニューヨークなどで行われている。民間のセクターでは珍しいが遺体の水葬を実施する会社は、ニューヨークとノースカロライナとネプチューン協会が運営している。ニューヨークのシーサービス社によると、葬儀場準備と水葬の料金で、8千ドルから1万ドルの費用がかかる。
水葬は、公海まで比較的小さな船をチャーターして行う場合は、参加できるのは通常1人である。届け出書類には、水葬を行った正確な地点の記述が必要である。葬儀社の了解が得られれば、海岸のどこでも可能である。
たとえばあるカリフォルニア女性は、カヌーに乗った姿で水葬されたいと思った。しかしカリフォルニア州では水葬が非合法なので、彼女が死んだとき、葬儀社は彼女の遺体とカヌーをトラックに積んで、オレゴンまで運んだ。そして15マイル沖合で釣り船から葬式カヌーを進水させた。総費用は4,000ドルかかった。
退職軍人者協会によると、軍葬の資格がある者に対して、アメリカ海軍は水葬や散骨を行う。
しかし水葬をするには、船と人手があることが条件である。費用は遺体の準備と指定された港への輸送費用だけである。米国沿岸警備隊は、退職者のためにこのサービスを行なうが、実際の水葬は珍しい。
魚は、遺体を分解するのを手伝うために腐敗速度を通常の100倍に早める。魚やカニ、小さい海の生物は、死者の顔の柔らかな部分から食べ始める。瞼と唇、耳、そして目と鼻と口である。
サンフランシスコの病院の病理学者だったカー博士は、サンフランシスコ湾の冷たい水域に漂流した遺体が、海老や小さな魚の餌になっているという。第2次大戦中にガダルカナル諸島周辺に沈んだ軍艦が、50年後に3,000フィートの深海中に発見された。そして何千という多くの水兵は、サメなどの大きな魚にその胴体を食われていた。
サメは非常に消化時間(8日から21日)が遅いので、胃のなかに人間の肉体の一部が残存している所を発見されている。
フロリダの検視官であるデービス博士は、とらえたサメの胃の中に、靴を履いた下半身を発見したという。
オーストラリアのケースでは、捕らえて水槽に入れられたサメが、市民の見ている前で、人間の腕と手を吐き出したという。結局、この『有名な鮫のミステリー』は、腕の指紋と入墨から、行方不明だった人の体であることが解明された。魚は事故にあった遺体や防腐処理を施された遺体は避けるそうである。魚は彼らが出す臭いを好まない。そこで海にすむバクテリアの活動と物理的な働きが分解の大きな要素となる。
水葬は多くの民族が船を利用したり、岸から投げ降ろしたりして処分する。現在でもインド人は、死体を神聖なガンジス川に流すことを伝統にしている。かって、コレラなどの伝染病が蔓延したとき、死体を川に投げ込んだことによって、伝染病が加速し、多くの死者を出したことがある。しかし今日でも、岸で焼かれた遺体はガンジス川に流されている。電気による火葬場が建設されたが、薪で焼いたほうが伝統的であるというので、薪での火葬が根強く残っており、それが森林資源の破壊につながっているとして問題にもなっている。
それはさておき、この汚染を川から取り除くために、インド政府は特別のカミツキガメを飼育した。70ポンドはあるこのカメは、死者の肉だけを食べるように育てられた。彼らはそれぞれ1日1ポンドの遺体を食べ、それによってガンジス川を死後の汚染から守っているのである。
水のなかの遺体は、嫌な匂いがする。水にさらされた遺体は、陸上の4倍も速く腐敗する。そして、水がなまぬるく、汚染されていたなら、腐敗はより速く進む。さらに死体は海底を漂ったり、船のスクリューに傷つけられたなら分解が早められ、さらに水中の虫がこの分解を助ける。遺体が水中に沈んだなら、短時間に様々な変化が起こる。
最初は、手のひらと足の裏の皮膚にしわがよる。死体を冷たい水のなかに1日から3週間入れておくと、皮膚は死蝋化し、バクテリアの活動を止めることになる。ミネソタ州のスペリオ湖に5年前に沈んだ車のなかに2体の遺体が発見されたときもそれであった。非常に冷たい水により、遺体は死蝋化し、内部の器官も良く保存されていた。
水の中に何時間も漬かっていると、遺体の皮膚は白く柔らかくなり、そして非常に不愉快な匂いを発する。暖かい水の中では、分解が促進し、皮膚が弛みはじめ、黒くそして血が沈殿して死班になってくる。体は膨れ、そして目は飛び出し「溺死」特有の姿となる。
かって病理学者は、この匂いを覆うために、死体保管所では火薬を燃やしたという。今では、彼らは外科のマスクにベンゾイン(安息香酸)の匂いを染みこますか、臭いを減少させるために、少なくとも4時間遺体を凍らせる。また飛行機衝突や地震などの災害で、瓦礫の下で腐っている体を捜す間も、ベンゾインか、それに類似した薬品が使用される。(イザーソン著『死から灰に』ガレン出版社320頁)
かって米国では共同墓地が地域社会構造の一部分であった。さらにアメリカの共同墓地は、地域の礼拝所に隣接していた。しかし都市化により結局、共同墓地は都市の周囲に移転された。
今日共同墓地は地域社会から離れ、それを運営している業者の多くは高収益を上げている。これは、事前(プレニード)契約と非課税特典と安い土地代に起因する。
ジェシカ・ミッドフォード女史は、1963年ロサンゼルス『芝生タイプ』霊園を調査した。それによると、墓の設置は1エーカーあたり907柱の埋葬が可能である。さらに墓を上下に使用すれば1,815柱利用できるようになる。
世界で最も有名な共同墓地の一つである、ロサンゼルスのフォーレスト・ローン・メモリアルパークには、コンサート・ホール、結婚式用チャペル、映画館、博物館、みやげもの店が設置されているので『死者のためのディズニーランド』と描写された。この霊園には少なくとも年間200万人の訪問者がある。
変化の早い今日の社会の中で、先祖代々の墓の必要性が次第に減少した。特に先祖崇拝の伝統のないアメリカでは、墓参りそのものの行事があまりない。また1カ所に定住しない国民性では先祖代々の墓を管理することは出来ないであろう。所有者が国内のどこに移転しても墓地の交換が可能な時代がくるかもしれない。
一般的に共同墓地の1区画は、100ドルから3,500ドルの費用がかかる。しかしロサンゼルスでも高級なウエスト・ビレッッジ・メモリアル・パークでは、最低額でも1万5千ドルという。
では、墓を購入する場合どこに依頼するのであろう。もちろん霊園業者であるが、葬儀社に依頼することもある。墓の購入にあたってのチェックポイントは何であろう。
・霊園の所有者は誰か?
・霊園の管理者は誰か?
・永代管理をするための資金は?
・霊園の資金を管理する業者はどこか?
・霊園はどの「宗教」に対応しているか?
・霊園は、美しいか?
・霊園での墓石サイズ、墓碑などの規則は?
・霊園の管理状態は?
・霊園を訪問する際の規則は?
・霊園の区画を他人に売り出すことが可能か?
・販売時の条件は何か?
(イザーソン著『死から灰に』523頁)
墓は都市の開発などによって絶えず移転を余儀なくされてきた。もともと中世のヨーロッパの貧しい人々は、死後大きな墓穴に一緒に埋葬された。そしてその墓穴が一杯になったとき、土で覆われ、代わりに埋葬されて何年も経た墓穴が再び開かれた。そして墓から掘り起こされ取り出された骨が、納骨堂へ納められた。裕福である人々は教会の内側の板石の下に埋葬されたが、一杯になるとやがて発掘されて納骨堂に送られた。
19世紀を通してイギリスやフランスでは、墓穴に埋葬されてから5年後に骨が取り除かれた。墓堀人は1世代のうちに6回共同墓地の堀返しを操り返したという。そして発掘された骨は納骨堂に納められた。
人が死んで墓穴に埋葬される時、先に死んだ人々の骨が押しのけられるのである。欧米の多くの国では共同墓地の使用期限が、2年から30年である。バンクーバー、ブリティッシュ・コロンビア州(シアトルの隣)では墓に対する使用期限は30年である。ロンドンのある霊園では、裕福である階層の人々のために99年の賃貸契約期間を持っている。日本でも都市部では公営・私営・寺院をとわず墓の数が不足してきており、最近では新規に借りる場合には年代を区切って使用する契約が定着してきている。
イギリスのロンドンに本部を置くナショナル・デス・センターという団体は、自分たち自身で葬儀から埋葬まで行うことをテーマにした運動を行っている。イギリスでは年間に43万7千件の火葬が行われ、それだけの棺が灰になり空気汚染の原因になっているとして、エコロジーに注目したものである。しかし同センターが推薦しているグリーンブリアル(緑の埋葬)も思ったより安くないという批判が葬儀社から出ている。イギリスの葬儀雑誌『フューネラルサービス』7月号によると、ダービー市議会では、段ボール製の棺で埋葬し、その上に樹木を植えてもよいという決議を出した。
しかし葬儀社によるとノッチンガムロード霊園でのグリーンブリアル葬儀費用は通常の埋葬費用の3倍かかるという。それは樹木が根をはるには、通常の埋葬区画より多くの敷地が必要になるためという。棺の費用は確かに10分の1の50ポンドで収まる。しかし霊園の1区画の費用は市民が135ポンド、そしてそれ以外の人には70ポンドという。
どこに墓をもつか。これは墓をもたない人の共通の悩みである。これからの時代、墓をインターネットの中にもつというのも珍しくなってくるかもしれない。
インターネットのホームページの一つ、<ワールド・ワイド・セメタリー>では、インターネットの画面に、故人名、死亡年月日、経歴などを登録することが出来る。もちろん写真も載せることが出来る。故人の友人などは、インターネットでこの頁にアクセスしたあと、その人の名前を検索して頁を開き、その人の経歴を読んだり、自分からメッセージや花を送ることが出来るようになっている。
この霊園への登録費用は文字だけが7ドル、墓などを備えると15ドルとなっている。