1988.08 |
イスラム教の聖典「コーラン」によると、「魂は皆、死を体験しなければならない」(3章)「各人の死ぬ時間は予め正確に定められている」(16章)「天使が時の終りにラッパを吹くと、神が嘉する者以外は全て消滅する」(39章)と説かれている。
信仰のある者が死ぬと、白い衣を着た天使がやって来て、彼を神のいる安らぎの場所に招く。死者の魂はじや香の甘美な香りを放つので、天使たちはその香りを満足してかぎ味わう。その魂は天使から次の天使にと引き継がれ、ついには信仰深き魂のいる天国へと至る。彼らはその魂を喜んで迎え、地上に残してきた人々のことについていろいろと尋ねるという。不信仰の者が死ぬと、怒りの天使がやって来る。その死者の魂は不快な悪臭を放ち、それが天使たちの気持を悪くする。墓の天使たちから尋問を受けたあと、彼は不信仰者たちのいる地獄に連れて行かれる。
さて人が臨終になると、その人の顔はメッカの方向に向けられる。周囲の男たちは「アラーの外に神はない」という信仰の告白(カリマ)を唱えたり、コーランのヤー・シーン章を唱える。
「臨終の最後の言葉がカリマである者は天国に入るであろう」
という言伝えがあるからである。
職業的な「泣き女」もタンバリンをもってそれに加わることがある。夕方に死ねば、その嘆きは一晩中続けられる。その間、人を雇ってコーランの朗唱も行なわれる。家族たちは「ああ私の主人よ」などと、死者に呼びかけるのである。死体は、朝死んだ場合にはその日のうちに埋葬する。熱い国なので腐りやすいということと、一晩死体を置くことの恐怖心からそうするのであろう。
死体は死体洗い人に渡され、丁重に洗われる。そのあと、人体の穴には綿が詰められ、バラ水が振り撒かれる。足を縛り、両手を胸におき、カファンという埋葬用の服が着せられる。
葬列の風習は国によってかなり違う。インドでは女たちは参加しない。エジプトでは棺の前を男の友人、親類が行進し、棺の後ろを女たちが、嘆きながらついてくる。雇った泣き女たちは嘆きの声をつのらせ、死者を賛美しながらついて行く。だが聖者の葬列の場合には喜びの声を上げるという。
墓では、顔がメッカの方向を向くように右向きに寝かされる。小量の土が振り撒かれ、コーランが唱えられ、それから墓の蓋が閉じられる。夜になると墓の天使たちがやって来て、死者が正しい信仰をもっていたか調べるという。もし答えが満足のいくものであれば、美しい顔をした人が死者の前に現われ、「私は汝の善行だ」と告げる。そうでない場合には恐ろしい容貌をした人が現われ、死者は辛い体験をするという。イスラム教徒たちは、この「墓の拷問」の恐怖を信じている。